空飛ぶクルマはいつ運用される? 技術進歩をどう予想して研究開発する?
昨今,空飛ぶクルマがずっと話題になっています。空飛ぶタクシーとか,電動マルチコプターとか,いい方はさておきですが,自動運転や簡単な運転操作で運用可能な電動の垂直離陸可能な可変翼機がはやっているわけです。
ところで、「あと2年で運用できる」みたいなニュースをずっと見ている気がしませんか? テックベンチャー系界隈でよくいわれる「実用化される目途は2年後が一番多い」という状態です。
つまり,インタビューや取材で実用化されるのはいつか?と質問されると,作っている本人らも今必死で鋭意開発しているものの完成日はよくわからないので,とりあえず2年後と答える人が多いという経験則です。
つまり,自然と2年後目途に実用化というコメントや記事が増えます。そして,また次のインタビューの際も2年後という答えがきます。外からニュースのみで観察している,ずっと完成しないという印象を受けるわけです。
技術的な実現目途はどうたてる?
中の人,あるいは計画する人、投資する人が、こうい未知のものが いつ完成するか というのは様々な判断の基準として必要です。その企業にいつ投資するか,あるいはその開発計画が現実的かを見えてくるからです。今回は,これらをエンジニア,あるいは研究者はどう予想して研究開発しているかの一例を紹介したいと思います。3つの大枠があります。
1:自分たちの努力による進歩を考慮
2:他人の努力による進歩を考慮
3:国等のルールや文化の変化速度を考慮
言い方は色々ありますが、つまり研究開発要素のそれぞれの要素を変数と定数/係数(固定or選択につよい制限がある)のどちらとして考えるかというものです。これは技術開発だけでなく、様々な課題解決の際にも重要な考えかたです。
まず1は自身らからみれば変数として考えられます。創意工夫でかえられます。昼夜を問わず努力するという原始的な手でも加速させられます。一方で2や3は基本は定数/係数なので,これを現状から変更するには様々なコスト(お金、時間、人力)が必要になると考えます。
そのため、可能なかぎり1で完結できる計画や手段を考えることが低コストあるいは迅速な実現につながると言えます。
しかし、2や3についての関与を0にすることは殆どの場合で困難で,
この部分をどう解決するかは、他人(他組織)との協業や,ルールの変更のためのロビー活動,文化の変化のためのコマーシャルやブランディングが必要になります。
話はそれますが,日ごろの大小様々な課題の解決において,この2と3の部分に対して悩む人が一定数います。もちろん,必ずしも2や3、つまり他人の行動原理や,ルールが正解であると考える必要はありませんが,
2や3は基本は変化しにくいものです。まずは1の中で今最大限何かできるか考えることが合理的です。2や3ばかりにグチグチ言っていると,行動をともなわない口だけの人と思わるでしょう。あるいは、2や3の領域についての努力を行い1について工夫しないがために成果を得られない人も多いでしょう。例えば,部下の行動には逐一文句を言う割に、自己管理が全くできていない管理職などがその例です。
空飛ぶクルマにあてはめて考えると。
ちょっと話が抽象的になったので、空飛ぶ車について説明します。バッテリーに蓄電した電力をモータで回転運動に変化させて飛ぶ方法の空飛ぶ車について考えます。
1:自組織:どういう仕組みと構造のクルマをどう運用するかなど
2:他組織:バッテリ、モーターの研究開発、製造メーカ、あるいは研究者
3:発着場所の確保,航空法,危険ではないかという一般の認識
3:国等のルールや文化の変化速度を考慮
発着場所の確保,航空法,危険ではないかという一般の認識
説明が容易なので3から説明します。そもそも,空飛ぶクルマは,様々なところに離着陸をしたいわけです。旧来のヘリポートからヘリポートへの移動なら今のヘリコプターでよいからです。そうなると、それを可能とするように国のルールの変更が必要になります。1つの小さいテック系ベンチャーなどが動いてもルールは変えてもらえないので、様々な組織と連合して,国や既存のルールを実質運用している団体とともに今後のルールについて話し合うところからはじまります。これが1日で終わるはずもなく,1か月やそこらで終わらないのは想像がつくと思います。1年やそこらでも終わらないわけです。この決め事を決めるスピード感は,その国その組織でそれぞれおおよそのスピード感があり、これを早めることは相当のコストがかかります。つまり、変化はするけど、そのスピード感は変化しにくいという意味で定数として扱う必要があります。
逆に言えば,1の自組織に,3の関連団体の関係者がいると3が定数ではなく変数のように扱えます。例えば,電動キックボードの路上運用は,昔から何度もチャレンジや検討する組織がありましたが、なかなか実現しなかったのは,道路という様々な法律が関わるエリアで運用されるものだったからです。現在Loopという会社は,警察関係者を組織に入れることで,この3に関係する部分の解決のスピード感を高めたと言えます。
2:他人の努力による進歩を考慮
バッテリ、モーターの研究開発、製造メーカ、あるいは研究者
空飛ぶクルマのコア技術は4つくらいにわけると,は高性能高効率なモータ、軽量高エネルギ密度のバッテリ,自動航行システム、落下等の安全確保のシステム,あたりだと思います。空飛ぶクルマをつくろう!と考えた場合、ホビー用のマルチコプターから大型化するだけでは実現できません。この特に1と2のハードウェアは人が乗る上で,より高性能とする必要があり,これを自社で開発するのは相当に資本が必要です。
今トップレベルのモータやバッテリーは超大企業の研究開発成果であるわけです。それらの技術もまた性能の進歩におおよその速度感があります。その速度よりも早く高性能なバッテリーやモータを手に入れることは至難の業ということです。例えば,バッテリーで言えば、リチュームポリマーバッテリーが開発された後、そのエネルギーの質量密度の増加は、年月の経過と線形的に増えていっています。ムーアの法則は聞いたことがあると思いますが、様々な技術の研究開発の性能向上の時間経過の変化率(速度)は、大局的にみると一定になりがちです。何故かというと、その分野を学んでいる若者の数が激増しないし、その分野を研究している研究者も激増しないし、その分野の研究開発に投資されるお金や人的資本をいれる度合もまた激増しないからです。それらの速度感はバッテリーであれモータであれ、明日突然飛躍するということは基本はなく、日進月歩で増えつつも常識的なスピード感があります。明日空飛ぶクルマを作りたいから高性能なバッテリーが欲しいといっても、それらのバッテリー開発会社が突然に開発を加速させるわけがないからです。そういう意味では、このような要素技術の性能(の変化速度)も定数として扱うべきです。
1:自分たちの努力による進歩を考慮
自組織:どういう仕組みと構造のクルマをどう運用するかなど
それでは自組織は変数的な自分らでできることだけを頑張っていればよいのか?というともちろんそうではないでしょう。まずは、自分らで対応できる、変数として扱える部分をどうすれば最大に、最適に、一番目標に近づけるか考えて行動することが必要でしょう。そして,その中で当初は2や3のような定数だと思っていた課題が、 実は見方を変えると変数として扱えるのではないか?あるいは、そもそも違う方法で、既存の2や3を無視して改善できるのはないかとアイデアにつながる場合もあるからです。
まず1にできる変数の部分をやっていない人や組織が,2や3を変えようとしても,まず相手にされないのが普通です。まずは自分らで何とかなる部分をどんどんすすめることが必要でしょう。
これらを踏まえ実現可能時期をどう予想
これは色々なケースがありますが,一般的にはルールの変更つまり,3の要素の変更には、具体的な成果を求められます。つまり、結局どんな空飛ぶクルマができるのか?という確認が,3の議論のある段階では確認されるフェーズがくるはずです。
そのため、3でルール変更を先に行い、あとで開発するということは普通は発生しえないはずです。そのため、まず運用可能な試験モデルが必要になります。さて、空飛ぶ車の場合は、モータとバッテリーが、年々どのように進歩するかは様々な研究で予想されています。n年後を完成日として、その際に現実的な値段で調達できるだろうモータとバッテリーも予想がつくといことになります。そして現在のプロペラの性能(回転によりどれくらい推力を出せるか)を考慮すれば、n年後の空飛ぶ車の最大性能の期待値が予想できます。人を2人を乗せて、大阪と東京間を飛行できるかどうかも予想できるわけです。言い方をかえれば1をどれだけ努力しても2の定数の影響で、n年後には空飛ぶ車で大阪東京間は移動できないとも予想できます。これを、何か強いモノ言う投資家の意見として1年後にしてくれ,と言われても、2のバッテリーやモータのどちらかを加速度的に開発するという非常にコストのかかる努力をするか、あるいは、マルチコプターという方法自体を抜本的に変化させるイノベーションをしないかぎりは完成日は大きくは前倒しできません。ましてや、それが解決できたとしても3のルールの変更も待ち構えています。
例えば万博では3のルールの変更は、万博だ!という大義名分で問題なくなるとして,2だけはどうしようもないです。
おそらく今のバッテリーとモータの技術的、あるいは自動運転の技術のどこかにボトムがあり、万博の年に運用するためには、相当のコストをかけて加速させないと難しいという状態なのだろうなと推察できるわけです。
さいごに
今回は空飛ぶクルマを例に,テクノロジが関わる未来予想について説明しました。何か新しいロボットでも車でも、プロダクトでも何かを開発する際に、0からすべ手を作り出すことはほぼありません。そのため,達成しなければならない大きな目標のために,どの課題が変数で、どれが定数なのかという部分を見極めることが非常に重要になると考えます。
余談ですが,大学教員が口酸っぱく言う部分は,この2や3の部分が多いです。まずは既存の枠組みの中で考えられるところを先に考えてから,2や3の一部が変化したら(変化させられたら)どうなるだろうか考えてみようということです。