「あなたにオレと母親の悲しみが分かるの?!」
自分の言ってる事が分からない夫
家庭を顧みないモトオが、私にこう言ってきたのは義父(モトオの父)のお葬式があった日の夜でした。
発達障害だったモトオにとって、喪主を努めることは大変だったのかもしれませんが、何も知らない私はこの日相当酷い目に遭わされたのでした。中でも遠くから駆け付けてくれた私の両親を帰すという行動には言葉がありませんでした。
モトオは、私の両親から香典を受け取るなり「会食の席を用意していないので、すいませんが… 」とだけ言って黙ったのです。
私がモトオに意見しようとすると、うちの両親はすぐに「ああ、大丈夫だから」と平気なフリをして帰って行きました。勿論、私が後で電話で謝りましたが、その後何年も経ってから、妹の義理のお婆さんのお葬式に行った時は親戚として好意的に扱われたという話が出て、本当に悲しくなりました。モトオを含め彼の実家には常識がないようでした。
とにかく自分の親を不条理な目に遭わされて黙っていられなかった私は、その夜「いくらなんでもあれはないでしょ?」と話を切り出したのですが、モトオはなんと謝るどころか「あなたにオレと母親の悲しみが分かるの?!」と言ってきたのでした。
そして、完全に頭に来た私は彼の頬をひっぱたいていたのです。その瞬間を今も覚えていますが、自分が人を叩いたことが信じられませんでした。
先日オスカーの授賞式で、ウィル・スミスがクリス・ロックをひっぱたいたニュースを見て、この時の事を思い出しました。どんな理由であれ手を上げた方が損をしますから、怒りを覚えるような人がいたら静かに離れるのが一番です。
人間は完璧ではないので、間違ったことをしたら素直に謝ればいいと思っていた私は、お葬式でも流暢に話していたモトオがまさか会話ができない人とは知らず、どんどん闇に落とされていったのでした。
悪い事が続くのは、間違った行動を取っているという人生のサイン
義父が亡くなる数日前から、悪い事が続いていました。
私たちは年末家族でスキー旅行に出かけ、その後久しぶりに私の実家へ行ってお正月を過ごそうという予定を立てていました。当時13歳の老犬を連れていたのですが、宿泊先のペットホテルが最悪だったことで犬が体調を崩し、そんな中、私の実家に帰ると、今度はムスメが夕方になって高熱を出し、救急病院に連れていく話をしているところへ、モトオの実家から義父が亡くなったと知らせが入ったのでした。
うちの親に手分けして車を出してもらい、モトオを駅まで送ってもらったり、私とムスメは救急病院に連れて行ってもらったりしましたが、年末でしたから血便と下痢が止まらない老犬は治療先がなく、我が家に帰ってからもモトオが実家に行ったままなので、私は一人正月でもやってる動物病院を探し、犬とムスメの看病を昼夜なくやっていました。
モトオは実父を亡くした心痛があるからと、私は帰ってきたモトオも慰めながら、彼が葬儀に集中できるよう家のことは一手に引き受けていたのですが、モトオは何一つ気づかないというか、当たり前だと思っていました。
ムスメもカサンドラ?!
私の実家で義父死亡の連絡を受けた時、熱を出し離れた部屋で寝かされていたムスメが荷物を取りに部屋に来た父モトオに「どうしたの?」と聞いたそうです。
すると、怒った顔で無視され何も言わずに出て行ったそうで、ムスメは自分が何か悪いことをしたのかと思い、布団の中で泣いたそうです。
この話しをムスメから聞いたのはほんの数年前で、義父の死からは10年近く経っていました。まさかムスメも小さい頃からこうやってモトオから傷つけられていたとは知りませんでした。
特性を考えれば、モトオは自分のことでいっぱいで、子供が悲しまないよう「心配しなくても大丈夫だよ」などと言える人ではなかったのでしょう。
無視したのも聞こえ辛い耳の人なので、ムスメの声が聞こえなかったのかもしれません。聞こえていても、気が動転していれば無視することもあり得ます。
けれども、何も知りませんでしたから、モトオの傍若無人のせいで、この辺りから我が家には悪い事が次々と続くのでした。
両親を帰されただけじゃなかった葬儀
いろいろありすぎて、話が行ったり来たりしますが、葬儀中のモトオには、私とムスメが見えないかのようでした。私の提案で、ムスメが爺が入院していた時に行ったお見舞いで途中になってしまっていた絵本の続きを読んだのですが、モトオがその様子を写真に撮りまくっていて違和感を覚えました。私が「撮っていいの?」と聞くと、モトオが「いいじゃん」と言うので、悲しみを乗り越えられているんだと思いました。けれど、モトオはそれっきり私たちに話しかけてくることもなければ、近づいくこともなく、火葬場に行く時もなんと葬儀場に置き去りにされたのでした。
そもそも私とムスメの移動手段が用意されていなかったのです。呆然と佇んでいると知らない親戚が声をかけてくれました。「モトオちゃん、喪主努めるのでいっぱいで忘れちゃったんだな、きっと」。そう言って車に乗せてくれたのですが、結婚以来、彼側の親戚と会う機会はなかったので、気まずい感じでした。
私とムスメは慌てていたのでコートを取りに戻れず、そのまま車に飛び乗ったので、真冬の寒い火葬場で上着を着ていない私たちは目立ちました。またもや親戚の方たちが心配してくれ、病み上がりで咳き込むムスメにストールを借して頂いたりしました。
けれど、これはまだ序の口でした。会食が始まる前に、モトオが義母と義妹の二人だけを前に呼んで挨拶を始めたのです。「本日は、私たち家族の為にお集まり頂き…、私たち家族は…、私たち家族が…」と普段とは違う、滑舌のいい、大きく堂々とした声で「私たち家族」という言葉を私とムスメ抜きで連呼していました。
親戚がなんとなくざわついているのが分かりましたが、私は顔を挙げることが出来ませんでした。あの時、我慢して大丈夫なフリなどしなければよかったと後悔しています。あの場で泣けたらどんなに良かったかと思いますが、彼の笑いを取るほどの饒舌スピーチで会場は湧いていて、私の涙は引っ込んでいたのでした。度を越すマスキングは詐欺だと思います。
モラハラは、被害者も気づきにくい
モトオがよくしていた無視は虐待です。被害者は違和感や嫌悪感を感じながらも、自分がここで我慢すれば丸く収まると思ってしまうのですが、我慢は解決にはならず、心身をどんどん蝕んでいきます。自分を大切に思うことが大切で、話し合いができず、いつまでも自分のことしか考えられない相手とはうまくいくことはないと思います。