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身体障害はずるい、と思う理由

ヘルプマークがあだに!? 

ムスメが都内のサポート高校へ通うことになった時の話です。

朝の満員電車に不安を抱えるムスメの為、「ヘルプマーク」を貰いに離れた市役所まで行ってきました。マークの効力は知りませんでしたが、見た目にわからない虚弱体質なムスメの御守りにでもなればと思いました。それまで、知らなかったからとは言え、黙っていて痛い目にあってきたので、これからは、オープンにしていけば良いと思っていました。

極端に朝が苦手

ムスメは朝が極端に苦手で、朝食もあまり食べられない上、貧血気味なので、片道1時間ほどの満員電車には私も不安を感じていました。過去に一度身動きが取れない程の満員電車の中、ムスメが突然吐いたことがあったのですが、あれには私も驚きました。私がムスメの変化にすぐ気付いて、席を譲ってもらい、ちょうどいいビニール袋を持っていなかったら、どうなっていたことか!?恐ろしい惨事にならなくて本当に良かったと思います。あんなに人と密着した状態で、袋に嘔吐する様子を目の前で見せられるのは衝撃的で、周りの人には本当に申し訳なかったと思っています。彼女は結構すぐ吐くので、油断できない悩みの種でした。

脱線してしまいましたが、当時ヘルプマークは今ほど知られていませんでした。
付けている人も見たことがなく、優先席にも記載がありませんでした。

そんなマークでしたから、「こんなの付けてたって誰もわかんないよ!」とムスメの抵抗に遭いましたが、とにかくカバンに付けて優先席の前に立ってみてと説得しました。「譲ってもらえなくて元々と思ってればいいじゃない?」と言って。本人曰くこの考え方が難しいらしいのですが。

そして1日目、なんと女の人がそれを見て席を譲ってくれたそうで、私も「ほらね!」と一緒に喜びましたが、世の中そんなに甘いものではなかったのです。


見て分かること

譲ってもらえたのは、その日だけだったそうです。2日目からは誰も譲ってくれなくなったそうです。そこには、朝の決まった時間の決まった車両には同じ顔ぶれが乗っていることが多いという盲点があったのでした。毎朝顔を合わせるようになると『この人こんなカード付けてるけど、元気そうじゃない!?』という目で見られるというのです。

確かにムスメは、ヘッドホンをしてスマホを操作するただの若者にしか見えないのでした。私は「せめてヘッドホンやスマホの操作をしないで、辛そうな顔をしてるとかしなきゃダメじゃない?」と言うと、「他のことをして気を紛らわさなかったら、あんな電車には乗っていられない」と言うので「じゃあ仕方ないね」となり、この件はあっけなく終わったのでした。

結局ムスメは1週間もしないうちにヘルプマークをつけなくなり、優先席の前に立つのも止めたと言うので、訳を聞くと、優先席には大体周囲に関心のない人が座っていて、自分が辛い時にそういう「譲る気がさらさら無い健康そうな人」を見ていると腹が立ってくるからと言うのでした。

それを聞いた私は「いや、その人たちもあなたと同じで健康そうに見えるだけかもしれないよ。本当は何かあるのかも」と言うと「絶対に違う!見てわかるもん!」と言うのでした。確かに「明らかに該当しない人で周りに無関心な人」が優先席に座っていることはよくあることで、ムスメの言うことも分かるのですが、傍目はためから見たらムスメも普通の高校生にしか見えないので「いい若者がそんなとこに座ってるんじゃないよ」と思われるのもまた然りなのでした。


身体障害はずるいと思う理由

そして話は自然とそういう話になり、ムスメが「身体障害が憎いっていうか、ずるいって思っちゃう」と聞き捨てならないことを言うので、私はつい驚いて「人にはそれぞれ、その人にしか分からない痛みや苦しみがあるから、そういうことは言っちゃいけない」と、知ったような口で言ってしまいました。けれど、ムスメがそう思うのも無理はなかったのです。そういう私も普通の人が難なくできることを努力してやらなければいけないムスメの苦労が分かっていなかったのです。

電車の席一つにしても、身体障害の人は、というか見て分かりやすい障害の人は何も言わなくても周りから優しくされたり、手を差し伸べてもらえたりしますが、ムスメのように見えない障害だと、何も言わなければ助けて貰えないし、言ってもこのヘルプマークのように理解してもらえず無視されたり、疑いの眼差しを向けられたりするのです。障害といっても世の中には対応の差がありますから、ねたみたくもなるというわけでした。


優しい人もいれば、そうじゃない人もいる

けれど、実際人は大丈夫そうに見える人を助けようとは思わないので、助けてもらいたければ、辛抱強くヘルプマークをつけ続けなければいけません。

ヘルプマークは見えない障害を可視化できる革新的な道具ですが、プライドの高いASDムスメは同時に心も折れやすいので、助けて貰えないのにできない人のレッテルであるヘルプマークをつけ続けることができないのでした。

けれど、そこをムスメとよく話し合い「今は頑張れる」と自分で決めたので、ヘルプマークはそれから引き出しにしまったままです。これも特性からなのか、彼女はすぐ人のせいにしたり、人を恨んだりしがちなところがあるので(そういう経験を沢山してきているので無理もないのですが)、世の中にはいろいろな人がいること、自分が我慢できる許容範囲を知ることなど、普通なら話さなくても分かるようなことをできるだけ話し合いました。言われないと分からないことが人一倍あるので、大変は大変です。

ということで、大丈夫にしか見えないけどヘルプマークをつけている人は、勇気を持って声を上げていたりするので、これを読んで席を譲ってくれる人が増えるといいなと願いつつ、自分もできる範囲で譲るよう心がけています。

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