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偏食と歪んだ思考 ーモトオ編

発達障害に偏食が多いことは知られていますが、うちのふたりの偏食ぶりもなかなかでした。まずは、特に異色の存在だったモトオからご紹介しましょう。

彼の偏食には、結婚するまで気がつきませんでした。コーヒーとパクチーと辛いものが苦手というくらいで、後は好き嫌いは特にないと言っていたので、その通りに思っていました。

けれども、例の外面マスキング(本当の自分を隠すこと)で、これも見事に隠されていました。私がアメリカにいる時に作った簡単なパスタや煮込み料理を優しい顔をして美味しいと言って食べていましたから、外では礼儀をわきまえることが出来るのでした。

本当のモトオの味覚 

本当の彼は、スナック菓子やジャンクフードにカップ麺、料理は化学調味料がしっかりした濃い味のものが大好きで、しかも底無しの大食いでした。

恐らく味覚障害で薄い味が分からなかったり、感覚過敏で食感が苦手だったり、満腹中枢もよく働かなかったりするのだと思います。

結婚すると彼は外面を止め、私の作った料理を無言で食べ、美味しいかどうか聞くと「別に普通」と言いました。結婚前の彼はどこに行ったのか、私は結婚詐欺にあったのか、疑問をぶつけても答えは返ってきませんでした。

食事の時に不機嫌になるのは料理に不満があるからで、そんなことをする人は失礼な人です。結婚当初は料理に自信がなかったので自分を責めてしまいましたが、とんでもないことです。

私は笑顔の食卓を目指して、絵を描くことより料理に時間を割くようになっていきました。お陰で料理の腕は上がりましたが、問題は私の料理の腕前ではありませんでした。問題は、もっと根の深いところにありました。何を食べても美味しいと思えないモトオ自身の脳の癖か、或いはそもそもの味覚障害か、どっちにしろ私とは関係なかったのです。長年頑張っていた私は本当にバカでした。

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知らないとやってしまいがちな養育

彼は魚が好きではありませんでした。食べはしますが、機嫌が悪くなるのです。
私がそう言うと「嫌いじゃありません。 勝手に決めつけないで下さい」と、屁理屈をこねるのです。

焼き魚を出せば骨があると文句を言い、刺身を出せば「これは、おかずじゃないだろう! 何でご飯を食べればいいんだ?」と言うのです。毒づきました。めちゃくちゃでした。

初めてさんまの塩焼きを出した時なんか「骨!」と一言。何を言っているのか分からず、聞き返すと「骨があるんですけど!」と、オレ様が言うのです。

「魚には骨があるけど」と、私が言うと「うちでは、骨なんかなかった」と彼。

なんと彼の家では、お母さんが焼き魚の骨を取っていたと言うのです。そして、彼は外で焼き魚を食べたことがなかったので、骨を付けたまま焼き魚を出した私の事を常識知らずと思っていたのでした。

勿論、当時は発達障害など知りませんでしたから、私には、マザコンという言葉と昔流行った恋愛ドラマの冬彦さんが真っ先に浮かびした。冬彦さんは、90年代に大ブームになったドラマに出てくるマザコン男で、私は見ていませんでしたが有名な木馬に乗ってるシーンだけは知っています。

焼き魚の食べ方を知らないモトオには、食べ方を教え、自分でほぐして食べてもらいました。

発達障害を知らなければ、甘やかして育てたと思われるでしょうが、発達障害を知っているとその状況が容易に想像できます。ムスメでもそういうことは多々ありましたから。ただそのまま王様のようにさせてしまうと、とんでもない大人になるのは間違いありません。

発達障害の子供は、一人で出来ないことが多く、特に苦手なことをやらせるのは難しいので、つい代わりにやってあげてしまったり、粘ったけど結局親がやらされてしまったりすることは少なくないと思います。

支援に入っている小学校でも、自分でやるべきことをいまだに人にやってもらって当然と思っている、気になる子供達をよく見ますし、私も発達障害が分からなかった時は、ムスメが上手くできないと分かると、余裕のない時はついやってあげてしまうことがありました。

だからといって、突き放し過ぎも良くないので、どこでどういうふうに手を貸せば良いかは難しいところです。親が見極めて線引きをしたり、本人が自律して生活出来るよう丁寧に気長に、でもある程度厳しくしないといけないのだと思います。

歪んだ思考と決めたら譲らない姿勢

モトオの偏食には、彼の歪んだ思考も大きく関わっています。モトオが美味しいと決して言わないことに対して、私が不満を漏らすと彼はこう言いました。

「昔、母親が出した料理に美味しいって言ったら、その後、何度もその料理が出てきて最悪だった。 だから、オレはそれから言わないことに決めているんだ」と。

開いた口が塞がりませんでした。

人は食べて美味しかった料理に「美味しい!」と言い、また作ってもらえたら嬉しいと思います。言われた方も喜ぶ顔が見たくてまた作り、それが家の定番料理になったりするものです。それなのに、モトオにはそんな人の気持ちが分からないのです。

この時は彼が発達障害と分かり、ぽつぽつと本当のことを話してくれるようになっていたので、私が人の気持ちを説明すると聞いてはくれるようになっていました。

「美味しい」と言葉にすることは、作ってくれた人への感謝の気持ちも込められているから、「言って欲しい」とはっきり伝えると、「また出されないんだったら、言ってもいい」と言われました。

それから、彼はしばらくの間、ロボットのように一口目に「美味しいです」と言ってくれるようになりましたが、それも長くは続きませんでした。

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