記憶に残っている患者さんの話①
私は自分で言うのもなんだが、採血が上手い。
上手いというのは、
①痛くない
②細い血管でも採血できる
この2点において満足されると、上手いと評価されると思っている。
今回の患者さんは、以前勤めていた病院での話だ。
30代女性の患者さんを採血室に呼び入れたときのこと。
すっと出された腕を駆血して血管を探すと、全体的に血管が細くあまりはっきり触れる血管が見当たらない。
が、1か所だけ採血できそうな血管が細いがある。そこにいる。
ただ本当に細めだったので、23Gの翼状針(やや細めの針)で採血をした。
もちろん1回で成功。
「フハハハ!自他ともに認める採血師に敵などいないのだ!!」
とは思っていないが、よしよし、1回で採血できて良かった良かった。
と心の中で思っていた矢先、患者さんが
「えーーーっ!!痛くない…!!」
と驚きの声を挙げた。
そして目に涙を溜めて今にも泣き出しそうだった。
採血の際に痛くなくて驚かれることは良くあるのだが、泣かれるほど感動されたのは初めてだったので私も驚いた。
少し話を聞くと、その患者さんは婦人科系の末期がんを患っており、大病院では抗がん剤の治療等でかなりの回数の採血をされてきたそうだ。
ただしそれが、血管が細いがために3~4回失敗されることはざらではないようで、採血は本当につらいことだったと。
今回もまた何回も失敗されるんだろうな、と思っていた所、1回で採血が成功して驚いたのと同時に感動したらしい。
採血が終わった後に、「ありがとうございます…!」と泣きながら感謝されたことは、今でも良く覚えている。
その患者さんは、緩和ケア的な治療をしに来た患者さんだった。
採血が1回で成功したこともそうだけど、きっとそれまでにつらい治療やつらい現実にたくさん向き合ってきたのだろうな、と思うと、少しでも彼女の心が穏やかになれる時間が作れて、嬉しいな、と思った。
そして痛くない採血を目指すことは、一種のやりがいでもあるなと思ったのだった。
彼女はきっともう亡くなっているのだろうけど、今でも採血で患者さんに「痛くない!」と喜ばれる度に彼女を思い出すのだ。
そしてこれからもずっと思い出すのだと思う。