伊那谷フォレストカレッジを終えて
2回目の2泊3日の合宿が終わり、2022年の全てのカリキュラムが終わりました。
伊那谷フォレストカレッジは「森に関わる100の仕事をつくる」をテーマに、様々な分野の講師陣、様々なバックグラウンドの受講生が長野県伊那市に集い、森を多角的に学ぶ場。INA VALLEY FOREST COLLEGE協議会が主催し、2020年からはじまりました。前回まではオンラインの講座のみだったのが、3回目の今年は「身体性を持って森と出会う」とし、リアルとオンラインのハイブリッドでの開催でした。
林業に関わる部分を重点的に学ぶ「森で働くコース」と、森との関係性を模索する「森で企てるコース」があり、僕、オーサトは「森で企てるコース」に参加させていただきました。
遊んで学べる森の中のアウトドア用品店
参加のきっかけは「アウトドア用品店を営む者として、自然のことをもっと知りたい」という至極単純で安易なもので、最初の時点では、正直なところ「森に関わる100の仕事をつくる」というフレーズにあまりピンと来ていなかったなと思います。
それが、全ての講座が終わった今、どうしたら今後、YAUとして、また僕個人として森に関わっていけるか、どう関わっていけば良いのかをよく考えるようになりました。単に森と関わるだけならきっとそんな深く考えなくても良いのだろうけど、さらにその上のレベルで森との関わりを経済循環の中の一つの仕事として成り立たせられるくらい、具体的に考えられるようになりたいなと、今は思っています。
YAUが「遊んで学べる森の中のアウトドア用品店」をコンセプトにすることになったのは、この伊那谷フォレストカレッジの体験があってこそで、とても貴重で重要な経験だったなと思います。YAUとしてももちろんですが、僕個人の人生のターニングポイントとしても、すごく意義深いものになったと思います。運営や講師陣の方々はもちろん、場所などをご提供くださった伊那の街の方々に、貴重な経験をさせていただいたことを、とても感謝しています。
フォレストカレッジの開催中、ファシリテーターとして、また講師としてお話をしてくださっていた株式会社やまとわの奥田さんは、フォレストカレッジを終えた受講者に対して「森との関わりどうしていけばいいんだと頭を抱えている人も多いと思うが、とりあえず今はそんな重く考えず、個人個人が暮らしの中で森との関わりを何となく意識するだけでいいしそれがとても重要」と仰っていました。
確かに、そういった積み重ねが後に大きく作用してくるのだろうと思うし、何なら「文化」として改めて社会に根付かせていくためには絶対に必要なことだと思います。ただ、フォレストカレッジを卒業(と言っていいのかわからないけれど)した僕個人の想いとして、良くも悪くも、森により深く能動的に関わりたいと思うようになってしまったので、「何かできないかなー」と自分なりに、焦らずじっくり、ながーく考えていきたいなと思っています。
とにかく、てんこ盛りのカリキュラム
最初の合宿は7月で、こちらも2泊3日の合宿。前月にオンラインでの顔合わせはしていたものの、合宿などというものは社会人になってからはなかなかないし、どんな雰囲気になるのか全く想像がつかず、緊張していました(他の受講者はどうだったんだろう?笑)。ただ、そんな様子見の状態ながら、森の世界にグイグイ引き込まれて夢中になるあの感覚。カリキュラムがてんこ盛りということもあり、ずっとアドレナリンが出ていたなと思います。次々と目前に展開される、五感でも受け止めきれない物凄い情報量に僕のインプットが追いついておらず、暫くは少しずつ反芻している状態でした。
合宿初日は午後からスタート。森が大好きな長野県林務課の小林さんに連れられ、伊那市市民の森の中、唐松や赤松や檜、広葉樹の数々が美しい場所を案内していただき、まずその気持ちよさを身をもって感じる。
翌日は株式会社やまとわ中村さんに連れられて山へ入り、様々な側面から山を見る(帰りはASOBINAさんの協力のもと、林道や落葉でふかふかの土の上をマウンテンバイクで颯爽と下りました)。そしてそんな森でどうやって企てていくか、株式会社飛騨の森でクマは踊るの松本さん(有志で別日程で行ったヒダクマ視察ツアーの記事はこちら)から広葉樹の利活用や飛騨古川のFabCafeとそこで展開されているワークショップなど様々な取り組みを伺って、その後、株式会社山学ギルドの川端さん、手島さんから狩猟の新しいサービス「罠ブラザーズ」や、そもそも猟ではどのようなことをしているのかなどをご紹介いただきました。
3日目。森から切り出された木材がどのような工程で製材されるのか協議会会長の有賀製材所有賀さんに解説していただきながら、「森で働くコース」の受講者が切り出した丸太を製材するところを見学。その材をどうやって使っていくのが良いかみんなで悩み(今もまだ決まっていません)。その後、神戸から来られたSHARE WOODSヤマサキさんが六甲山の森の再生の際に切り出される木々、そして地域とどのように向き合っているかを伺いました。
やまとわ奥田さんの物腰の柔らかな雰囲気とは裏腹な鋭さの光る達眼に圧倒されつつ、また、その多岐にわたる分野の方々とのコネクションの広さに驚きながら、もちろん個々の講師の方々の話の興味深さ、面白さにワクワク、ゾクゾクする感覚もあり。
最初の合宿が終わった後、頭の中はごっちゃごちゃだったのに、とても晴れやかな気持ちだったのと、もっといろんな人のいろんな話を聞きたいし、語り合いたい!という衝動に駆られ、他の受講者の方と相談して、オンラインで集まって話す機会を設けてもらったりもしました。アウトプットしながらでないと整理できない、気持ちと情報。
次の合宿までの合間の8月には、株式会社山屋の秋本さんのオンライン講座があり、山に魅せられた人(山屋)の山屋ぶりを伺いました。山屋では山に関わるありとあらゆる仕事を請け負っており、歩荷、調査、撮影同行などをされているそうです。
で、2回目の合宿がつい先日の9月に行われました。
初日はまた市民の森から始まりました。株式会社百森の田畑さんからの講義と株式会社やまとわ奥田さんの講義だったのですが、不運にも車のオルタネーターが高速に乗ってる時に故障し、僕はレッカー騒ぎでお話を聞けず…。無念(ひとまず音声データは共有してもらいました)。。。
2日目は株式会社やまとわの事務所に行き、葉っぱビジネスで有名な徳島県上勝町から来られた、すぎとやまの杉山さんから杉の繊維から作った布「KINOF」や糸「KEETO」のお話を伺い、その後フォレストカレッジ1期生の竹内さんと、上勝町で地域おこし協力隊として活動されている石井さんに教えてもらいながら、「KINOF」を葛の葉で染める、草木染め体験。染めている合間の時間に、やまとわさんにある経木(赤松の生木を極々薄く削ったもの)を生産するための機械を見学させてもらいました。これまで経木を作られていたご高齢の方から譲り受けたという年季ものの機械が3台もあり、これは本当に圧巻でした。
会場を閉館間近という羽広荘へ移し、Backpacker’s Japan 石崎さん、Raicho inc. 藤江さん、やまとわ奥田さんの3人で「森と宿」というテーマで鼎談。ここでは「宿」というより「どうやって人が集う場を作るか」について話していたように思います。その後、ココホレジャパン株式会社/キノマチ会議アサイさんから「森を伝えるには」という切り口で講演いただきました。「無理に伝える必要はない、伝える気持ちになれない時はインプットの時」と仰っていたのが印象的でした。
3日目は株式会社DLDで身近なバイオマスエネルギーとしての薪やそのサービス、薪ストーブについてお話を伺い、最後は高遠城跡公園内にある進徳館(信州高遠藩の藩校だった場所)へ移動。長野県小林さんから進徳館と学校林の深い関係について解説があり、その後、熊本県の黒川温泉観光旅館協同組合、北山さんから、地域と森の連携や、取り組み始めている地域内の循環についてお話しいただきました。
全てのプログラムを終え「森と問答」というテーマで、受講生は暫しそれぞれ黙考…。これから森と関わっていくとき、何か一つ大切な「問い」を持っていれば、関わり続けていくことができるのではないか、というところから「森と問答」というテーマに。
これからどのように森と関わっていくか
僕がこの伊那谷フォレストカレッジの全てのカリキュラムを終えて得た「問い」は、本当にシンプルに「これからどのように森と関わっていくか」でした。
フォレストカレッジに参加した当初は「森に関わる100の仕事をつくる」ということにピンと来ていなかった、と冒頭でも書いたのですが、参加してみてやっと、「森に関わるためにはどうしたらいいのか」と考えるようになり、ここで初めて、やっと「森に関わる」というところのスタート地点に立てたような気がします。
日本は国土の約7割を森林が占める森林大国で、それはそれは身近に存在する森ですが、その森のことを知らなかった、或いは知っていても限られた側面しか認知していなかったのだと、まざまざと感じさせられた今回のフォレストカレッジ。でも、そこで様々な切り口からの森を見、聞き、体験することで、知らなかった森の姿を意識できるようになったし、視野が広がったと思います。
また、そういったカリキュラムを受講する中で、僕は「連携」と「循環」という2つのことが森との関わりで重要なキーになるのではと考えるようになりました。
森という広大で漠然とした存在、それに潜む多種多様な課題を一人でどうこうしようなんてことは到底無理で、たくさんの人が関わり、考え、様々な角度から取り組むからこそ、豊かさの失われた森は少しずつ豊かに、豊かなまま残されている森は豊かなままにしていくことができるのではないかと思います。多くの人が「連携」すること。まずこれが一つ目。
また、森の時間軸の長さもまたとても壮大で、一人の人間が見届けることも儘ならないということが多いということを学び、だとすれば、豊かな森をつくっていくためには、そのような森を豊かにしていく取り組みをたくさんの人たちの輪の中で「循環」させ、未来へと継続していく仕組みが必要なのではと思いました。
もちろん「森の豊かさとは」という、もっと哲学的な(哲学風な)問いもあります。単に森と呼んでいるその場所には当然所有者もいて、そこに棲む動物もいて、ありとあらゆる植物が根を張り、きのこも生え、虫もいる。建築資材の産出場所であったり、水源として保護しなければならない森であったり、親から子へ受け継がれた大切な財産でもある。当然、それぞれに豊かさは異なるのだろうから、一概に「コレ」というものはないのだろうなとも思うので、YAUというアウトドア用品店として目指す森がどのように豊かであるべきなのかも考えつつ、少しずつ「連携」と「循環」を目指していけたらいいなと思っていますし、安曇野という地の森で、豊かさを見出せていけたらいいなと思っています。
最後に改めて、運営や講師陣の方々、我々受講者をあたたかく受け入れてくださった伊那の街の方々、そして一緒に学んだ受講生の皆さん、本当にありがとうございました。まだオープンしてすらいないのですが「遊んで学べる森の中のアウトドア用品店」として、しっかりYAUを育てていければと思っていますので、遠くからでも、応援していただけると、大変心強いです。
これからも、YAUをよろしくお願いいたします!
伊那谷フォレストカレッジは来年以降も続くと思いますので、この記事を読まれた方で興味のある方は、是非とも応募してみてください。新しい森との関係を見つけられるかも知れませんよ!