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いのちのものがたり

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地球へ降りてきた一つの「いのち」の地球体験記
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いのちのものがたり 完全版

 昔々、人がいのちを生きていた時代、わたしはあなたに出逢った。声に成らない声を聴き、風に乗った思いを聞いた。「きみがすき」その声は、風と共にやってきた。なつかしい「それ」は、わたしの身体を包んで溶かした。なつかしく、とても暖かい。「それ」は、いのちだった。  歌を聞いた。王の歌を儚く切ないそれは、わたしの胸を打った。声にならない音だった。愛した者が消えていく、愛した国が消えていく、それは王の思いだった。わたしは、胸が痛かった。握りしめられた思いが、苦しかった。人は思いを生み

いのちのものがたり1

昔々、人がいのちを生きていた時代、わたしはあなたに出逢った。 声に成らない声を聴き、風に乗った思いを聞いた。 「きみがすき」身体を包むその声は、風と共にやってきた。 なつかしい「それ」は、わたしの身体を包んで溶かした。 なつかしく、とても暖かい。「それ」は、いのちだった。

いのちのものがたり2

歌を聞いた。王の歌を 儚く切ないそれは、わたしの胸を打った。 声にならない音だった。 愛した者が消えていく、愛した国が消えていく、それは王の思いだった。 わたしは、胸が痛かった。 握りしめられた思いが、苦しかった。 人は思いを生みだし、人間になった。

いのちのものがたり3

そしてまた、幾ばくかの歳月が流れ、わたしは月にいた。 あの、懐かしい星を眺めていた。 ごうごうと音がする。いのちの音が、唄をうたっていた。 いくつもの思いが、声にならない声が音を立てていた。 わたしは毎日声を聴いた。轟く音を そして祈った。おもいが静まるように。

いのちのものがたり4

うごめくおもいは、大きくなった。 まるでバラバラの「それ」は一つの固まりのようにうねり、広がっていった。 いのちは深くしずみ、おもいは大きくなった。 こわれそうだった、わたしの思いが。 あったのだ、思いが。 「わたし」は、人間になった。

いのちのものがたり5

おりてゆく 錘をつけて、どんどん引かれ 思いは「かたち」になった。 身体という新しいいのち。 そして、かたちの無い「いのち」を わたしは、新しいいのちに刻み込んだ。 忘れてしまわぬように。

いのちのものがたり6

そこは夢のようだった。それは実際、夢だった。 いのちの固まり。わたしとあなたが出来た。 目に映る全てが新しく、面白かった。 けれど、なにかを忘れていった。

いのちのものがたり7

孤独という感覚がやってきた。わたしの思いが解らなくなった。 わたしが誰だか解らなくなった。 段々と目が覚めなくなり、ずっと夢の中だった。 もう夢ということもわからなくなった頃。わたしは、夢をみた。 「わたし」は生まれた。 喜びと共に、たくさんの呪をかけて、わたしはうまれた。 巡る「いのち」の音がした。

いのちのものがたり8

音がする、ここはどこだろう。 ねっとりとした空間だった。空を身体に入れるらしい。 何とも言えない異物感に、わたしはむせた。 とにかく苦しいのだが、ここではこうらしい。 歌が聞こえた。やさしい唄が。寂しく、儚く、あたたかい。 わたしは誰だろう。 眩く、儚い、この世の歌。それは赤子へのレクイエムのようだった。

いのちのものがたり9

わたしはまるで、誰かの代わりのようだった。 わたしを見る母も仮の姿のようだった。 ここは全てが幻なのか。 母はよく歌をうたっていた。 わたしをあやすように、自分の世界をあやしていた。 夢を見ていた。 それは実際夢だったが、この世ではそれがすべてだった。

いのちのものがたり10

母は時たま、わたしを見てとても悲しい顔をした。 死ぬおもいで、いのちを隠して生きてきた。 それを子にやらせなければならない。 この事の苦しみは、計り知れなかった。 連綿と受け継がれた歌は、救いだった。

いのちのものがたり11

なぜだろう、こころが騒ぐ。 それはありとあらゆるものを招いた。 感情に導かれ、人生というものが始まった。 わたしは、自分が誰なのか分からなくなっていたが 偶然を装って、夢は幾重にも折り重なり進んでいった。

いのちのものがたり12

ことの始まりを覚えているものは居ないようだった。 日々訪れる思いに載せて、ここを生きた。 永遠を感じながら、肉体の終わりを感じ まだ何も始まっていない気がするのに、まるで余生のようだった。

いのちのものがたり13

こちらには、「悩み」というものある。 答えを求めて、時にそれをいのちから離れて求めるのだ。 いのちを忘れると、不安というものにおそわれる。 源を忘れて形を信じるようになっていた。 在るものを無いと言い、無いものを有るという。