岐阜の交通ハブ拠点・美濃加茂で「MINGLE」が見据える10年後の観光とは?
突然ですが見てください、この混じりっ気のない透き通ったお茶!
ズズッ……あ、苦味よりも甘みが引き立っておいしい……!
申し遅れました、やってこ!シンカイ店長のナカノです。
えっ、京都か静岡にでも来ているのかって?
いいえ、ここは岐阜県南部に位置する美濃加茂(みのかも)市。JR美濃太田駅から徒歩5分、商店街の一角に建つ複合施設「MINGLE」の1F「美濃加茂茶舗」では、岐阜産の高品質茶葉を使用したお茶を楽しめます。
「美濃加茂茶舗」で提供される美しい緑茶は「美濃白川茶」。美濃加茂市から車で約1時間、東白川村の厳しい傾斜面で生育される銘柄です。
「MINGLE」は3F建てのビルを利用した複合施設として2019年2月にオープンしました。ちなみに、2F部分は宿泊施設として7月21日より利用開始がスタートしたばかり。
3F部分は宿泊者のリビングや、イベントスペースとして貸し出されています。
「MINGLE」「美濃加茂茶舗」を手がけたのは、株式会社IDENTITY・共同代表取締役の碇和生(いかりかずお)さん。共同代表のモリジュンヤさんと共に立ち上げたウェブメディア『IDENTITY名古屋』では、名古屋の魅力を発信。東京、東海地方のベンチャー企業の創業支援やマーケティング中心のコンサルティング事業も展開していおり、現在は愛知、東京、岐阜・美濃加茂の三拠点を行き来する生活を送っています。
そんな時代の最先端を走る碇さんは、なぜ美濃加茂に興味を持ち、「MINGLE」をつくったのでしょうか?
お話を伺う中で浮かび上がってきたのは、
・Uターン、Iターン移住者の職業選択が不足
・美濃加茂らしさのあるカルチャー不在
という課題でした。碇さんは課題に対しどうアプローチしていくのでしょうか。美濃加茂の魅力と、街が抱える課題についてお聞きしました。
観光地までのアクセスよし、街並みよしの美濃加茂
ナカノ:こんにちは。岐阜県がお茶の産地だったとは知らず……。美味しいお茶をありがとうございました!
碇:喜んでいただけてよかったです。
ナカノ:さっそくですが、碇さんはなぜ美濃加茂市に?出身がこちらなのでしょうか。
碇:いえいえ、僕の地元は横浜です。両親ともに都会生まれ都会育ちで田舎というものに全く縁がありませんでした。もともと僕がこの場所を訪れたのは、共同代表のモリジュンヤ(以降、モリ)がきっかけです。ここ美濃加茂市は、彼の地元。初めてモリに連れられて美濃加茂を訪れた時に「これが田舎というものか!」衝撃を受けたんです。
ナカノ:美濃加茂が田舎の原体験だったのですね。
碇:とはいえ、めっちゃ田舎!というわけでも都会でもなく、観光地として知られているわけでもありません。だけど最近美濃太田駅前のホテルはいつも満室で。4年後には市内に外資系のマリオットホテルもオープン予定とホテル産業が盛り上がっているんです。
ナカノ:えっ、どうしてですか?
碇:実は、JR美濃太田駅って交通の拠点となる駅なんです。なのでパッケージツアーで美濃加茂を利用する海外観光客が多いんですよね。
例えば、名古屋まで乗り換えなしで40分で行けるし、飛騨高山まで直通の特急も通っています。また、美濃太田駅は、私鉄・長良川鉄道の始発駅。お盆の四日間に夜通し盆踊りを行う「郡上おどり」祭で有名な郡上八幡へも乗り換えなしでいけるのです。岐阜県内の観光地までのアクセスがよいので、美濃太田を拠点に県内を巡るのがオススメなんですよ。近年、特に飛騨高山を訪れる外国人観光客が急増しています。
ナカノ:観光地までのアクセス抜群の美濃太田は、観光客にとって滞在の穴場スポットなのですね。
碇:「MINGLE」の宿泊施設は、外国人観光客の利用を視野に入れています。また美濃加茂には中山道の旧宿場町「太田宿」の街並みが残っていることも強みのひとつ。趣ある長屋づくりの景観は、美濃加茂の大切な観光資源ですね。住人が利用する個人商店が軒を連ねる中、近年太田宿の空き家を使ってクリエイターのショップが増えてきています。
ただ、ものづくりをする人たちだからあくまで工房としての利用がメインで、ショップが開くのは土日やイベント開催時のみ、というお店が多いみたいですね。
中山道51番目の宿場町「太田宿」。中山道の難所のひとつ「太田の渡し」として知られています。荒天時は木曽川を船で渡ることができず、多くの人々が太田宿に滞留しました。
外観からうまさがにじみ出ている「魚徳」。人気商品「鮎甘露煮」は鵜飼が有名な岐阜ならでは。
シックな外観が目を引く「nipponia」は漆継の工房。欠けた食器類を漆で継いで修復します。
ナカノ:街並みにマッチしたおしゃれなお店が多いのですね!
碇:まだ借り手がついていない空き家も多いので、雰囲気のよい空間で新しくお店をはじめたいクリエイターや飲食店の方にはオススメの場所ですね。古い建物なので改修が必要になるケースが多いですが、水回りの改修工事にあたっては200万円まで市から助成金がでるので、制度活用するのも手ですよね。
ナカノ:200万円まで!それはありがたいですね。
碇:また、美濃加茂市は山あいの地域の観光開発にも目を向けていて。車で北へ20分、美濃加茂市伊深町(旧伊深村)は青々とした田園が美しいまさに田舎の原風景が広がっています。
車で20分走ると緑が気持ちよい田園風景が広がります。まるで映画「サマーウォーズ」の舞台のよう。
ナカノ:街からがらっと雰囲気が変わるのですね。
碇:伊深エリアには田園風景に加えて、旧・伊深村役場や正眼寺というお寺があります。
日本最大の禅寺、京都・妙心寺の修行僧が必ず訪れる正眼寺(しょうげんじ)はこれから観光開発でフォーカスされている場所のひとつ。観光地化されていない修行寺なので、ガイドブックに掲載されていないポテンシャルを秘めたスポットです。
外国人観光客を狙ったインバウンドツーリズムの展開が今後期待されていて、まさに僕たちも企画ができたらいいなあと構想しているところ。「MINGLE」からバスを走らせて座禅ができるプランがあればおもしろそうだなと思っています。
ナカノ:商店街、宿場町、自然とまだまだ活かせそうな資源が沢山!
静寂が守られ、ピリっとした空気は修行寺ならでは。観光地化されていないからこその空気感に背筋が伸びます!野球の神様・川上哲治が毎年修行に利用していたこともあって、プロ野球選手の聖地でもあるそう。
旧・伊深村役場庁所をそのまま活用した「茶霞 o'carre(さか オキャレ)」は正眼寺近くのカフェ。改築にあたって住民とのワークショップを重ね、コンセプトや内容を詰めていったのだとか。夏季はかき氷目当てに多くの客が訪れます。
自然資源の観光活用の事例は、木曽川流域にも及びます。昨年オープンしたBBQや川のアクティビティを楽しめる「リバーポートパーク美濃加茂」は平日にも関わらずBBQをする家族連れで賑わう人気スポット。
地元に根付いたカルチャーが育っていない!?
碇:観光資源となる宿場町や自然を活かしたアクティビティがある一方で、「MINGLE」のある美濃太田駅周辺は残念だと思うところもあって。歩いてみて感じたと思いますが、駅前商店街の活気が少し足りないんですよね。
ナカノ:たしかに、とても静か!
碇:観光向きの太田宿が最寄りの美濃太田駅から徒歩約20分と少し遠いので、楽しく街歩きができる工夫が必要だと思っています。商店街を通り、太田宿まで抜ける街並みが充実していたらいいのですが。
ナカノ:商店街を見ても若い人がほとんど歩いていないですよね。みんなどこにいるんだろう……。
碇:高校生は駅の北口に集まっているみたいですね。かつては、商店街のあるこちら側が美濃加茂駅のメインストリートでしたが、近年反対側の北口にチェーン店の展開がはじまりました。美濃加茂市近辺には大学がないので、市内に在住している名古屋方面の学校に通い、休日は車で遊びにいく。だからなかなか商店街を歩くこともないのでしょう。
ナカノ:なるほど。車を持っていたら、地元の外に遊びにいくのもうなずけますね。大学生だったら私もそうしてしまう気がします。
IDENTITY名古屋でインターン生、大学生の出口峻佑さん(左)は、現在「MINGLE」の企画運営を任されています。2F、3F部分の壁塗りも出口さん主導でDIYで行われたのだとか。
碇:街歩きが楽しめそうな太田宿周辺に個人のお店が少しずつ増えてきたものの、美濃加茂独自のカルチャーはなかなか育っていなくて。
ナカノ:カルチャーが育たないのはなぜですか?
碇:ひとつは、職業選択の幅が少ないことだと思っています。市内には、大手食品メーカーの工場がいくつもあるため、工場勤務が雇用の多数を占めていて、工場勤務者の4割が外国籍の人だと言われています。特にブラジル系の外国人労働者が多いので、街中の看板は、ポルトガル語が併記されているんですよ。市内にはブラジルの食材を集めたスーパーもあり、店内はポルトガル語が飛び交っています。
ナカノ:いたるところに見慣れない言語が書かれていましたが、ポルトガル語だったんですね!
「MINGLE」から多様性を発信する
碇:ただ、数年前にソニーの工場が潰れてからは労働人口自体もガクッと落ち込んでしまいました。人口流出をつなぎとめるためにも、街独自のカルチャーを生み出し、職業選択の多様性を増やしたいと思っています。「MINGLE」が情報の発信源になりクリエイティブなお店をつくったり、新たな文化を一緒に築ける人が街に増えたらいいなって。
ナカノ:職業選択の多様性!例えば今、どんな取り組みを考えていますか?
碇:いずれ「MINGLE」の1階は店舗運営に挑戦したい人が使うチャレンジショップと称して、運営していきたいと思っています。ゆくゆくは「美濃加茂茶舗」も独立した店舗に移転する予定なので。
伊藤尚哉さんは、日本茶専門店で働いた後、日本茶インストラクターの資格を取得し、2019年より「美濃加茂茶舗」の創業に参画し、店長に就任。
ナカノ:チャレンジできる場があれば、お店をはじめる意欲が上がりそうですね。
碇:現在でも「美濃加茂茶舗」の営業後には、場所を貸し出してイベントの開催も行っています。1日限定のカレーショップや、スナックイベントなど地元の人が集まれる場になりつつあります。「MINGLE」にたくさんの人が集まる光景が見れるとうれしいんですよね。
ナカノ:すでに人の流れができつつあるのですね。
碇:はい、ありがたいことに!ただ、ここまでたどり着くのに紆余曲折ありました。本当は昨年のうちに宿泊をオープンさせる予定だったのですが、ハプニングが起きて1年近く遅れてしまって。
ナカノ:なんと。
碇:元々は民泊で登録しようと思い、一通り消防と行政のチェックを終えたのですが、昨年の夏に民泊に関する法律の改正により、当初の設備では民泊ができないことがわかったのです。それならと、最終的にホテルや旅館と同じ旅館業を取ろうと決め追加工事を行いました。
ナカノ:ちょうど民泊の過渡期だったのですね。
碇:結局改装費用は、最初の見積もりより100万円多くかかっちゃいました……。
ナカノ:思わぬ出費でしたね……。
碇:他にも、オープン前に「MINGLE」の改装費用を集めようとクラウドファンディングで資金調達を行ったら、大切と言われているスタートダッシュで支援金額に伸び悩んだり。場所を構える上で思った通りにいかない部分も多いですね。
U・Iターン者が挑戦できる下地作りを
1月に行われたオープニングイベントには溢れんばかりのお客さんが!
ナカノ:現在「MINGLE」で開催されるイベントにはどんな方が参加されていますか?
碇:美濃加茂市出身で、今は市外で暮らしている方が多いですね。イベントに参加者にお話を伺うと「戻ってきたいけど、実際こっちに戻ってきても仕事がない」という声が多いのです。
いずれ地元に戻りたい人は多いけど、彼らの懸念は仕事の選択肢が少ないことなんだろうなと。だからお店の貸し出しは潜在的な需要があると感じています。
ナカノ:まさに私も東京にいる地元の友達から「戻りたいけど仕事がないという声をよく聞きます。
碇:ナカノさんの地元もそうかもしれませんが、美濃加茂のように、田舎すぎず都会でもない同じ位の規模感の町は日本全国で多いと思うんです。なんでも揃っていてすごく便利な訳でもないし、なにもない田舎という訳でもない。だからこそ、あえて美濃加茂を生活の拠点に選ぶ人は少ないのでしょうだと思います。
IターンUターンを考える人の中には、首都圏でスキルや経験を身に着けている人も多いはず。そういう方々が「挑戦してみていいんだ!」と思える下地づくりを「MINGLE」が行い、発信していけたらと思っています。
美濃太田駅前の商店街と太田宿を歩く中で「もっとこんなお店があったらいいのにな」とよそ者ながら思う場面が何度もありました。碇さんが言うように、美濃加茂のような田舎すぎず都会すぎない規模の街は全国にもっとも多いのではないでしょうか。だからこそ「なにもない街」で終わらせず、潜在的な観光資源を磨いたり、違う角度から見る眼が必要なのだと思います。
美濃加茂市には「MINGLE」によって街を色づける素地が備わったのではないでしょうか。多様性を認め、街に新たな文化を生み出す人を応援する「MINGLE」。今美濃加茂市は、ちいさく挑戦したいと思っている方にはぴったりの場所です。
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