セピア色の那覇を歩いて
夕方、どしゃぶりの雨があがると、那覇の町はタイムスリップしたかのようなセピア色に染まっていた。
ノースリーブの肌に当たる風は、日中よりもさらりと涼しい。
私はなんだか懐かしいような切ないような気持ちになって、炭酸が飲みたくなる。
旅先なのに懐かしいのはきっと、自分の中の何らかの原体験と引き合っているのだと思うけれど、記憶のしっぽはつかめそうでつかめない。
壺屋の周りは「すーじぐゎー」と呼ばれる細いくねくねした道が続いて、国際通りの賑わいが嘘かのようにゆったりとした時間が流れている。数回角を曲がるともう方角がわからなくなったけれど、構わず歩く。
日が傾くころ、甘いたおやかな香りが漂ってきた。サガリバナだ。
夕方に咲き日が昇るまでに落ちてしまうこの「幻の花」は、暗闇のなかで香りをまとい、虫を呼ぶのだという。
いつしか夜風が吹いている。
今夜は公設市場まわりの”さんべろ”をはしごして、風で酔いをさますかな。