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八ヶ岳に行きたい都民の憂鬱

 梅雨明けを控えて、各県の観光地では、首都圏の感染者数を固唾をのんで見守っているのではないかと思う。再選した小池都知事は、県を跨ぐ移動の自粛を再度要請した。緊急事態宣言下において、星野リゾートの星野佳路社長は、海外からの顧客が途絶えても「国内需要の方が大きい」「海外に行けなくなった日本人の需要も期待できる」「第1波と第2波の谷間需要をいかに喚起するかだ」と観光業の活路を説いていたが、巨大な観光需要を閉じ込めてしまう「首都圏が収束しない」現状をどう見ているだろうか。(資料

※この投稿は、7月7日の夕方時点で入手できるデータで書いてます。

 テレビを見ていても毎日報告される「東京の100人超えの感染者の数字」と「外出自粛を再度要請するには至っていない」と「県を跨ぐ移動の自粛を要請する」がどうつながっているのか(いないのか)がわからない。
 東京都の発表資料から[合計発覚者数]= [濃厚接触者]+ [調査中]の緊急事態宣言解除後のデータをグラフにしてみた。濃厚接触者数というのは「確定患者との接触歴があるもの」とあるので、「接触者なので検査した人」。調査中とあるのは、なんらかの症状か可能性により「医師が必要と判断し検査した人」で感染経路を調査中のもの(だと思う)。その後の調査で複数の患者の共通の行動履歴から、同じ職場で宴会に出席していたなどの新たなクラスターが発見され、調査中が濃厚接触者に変更になることもあると思われるが、修正データ及び、新規クラスター数の確認データは見つけられなかった。

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 百人越えを記録しているのが黄色の合計発覚者数の線。ホストクラブとかキャバクラ、職場内とか院内感染の既知クラスターの接触者が青色の線。この数が伸びるのは、周辺への感染拡大を封じ込める効果が期待できるのでいいのだが、問題なのは、赤色の[調査中=把握されていない新たな感染経路由来と思われる患者数]なんじゃないだろうか。この拡大が要注意なんだけど、指数関数的に増えているわけではない。7月6日時点の東京で、入院者数419人、内重症者数8人、入院・療養等 調整中185人という医療機関を直撃する数字も、7月1日に1000床確保の現状から3000床への増床を依頼しており(病院の経営は心配だが)、まだ余裕があるということなのだろう。こう見てくると、今はまだ飲食店を壊滅させかねない外出自粛を再度要請する状況ではないように思える。

 では、「県を跨ぐ移動の自粛を要請する」のはなぜだろう。7月4日の西村経済再生相は記者会見で、東京でのその時点での3日連続での100人越えを受けても、国としては県をまたぐ移動自粛は求めない方針を示している。政府は、「東京の数字は、地方には広がらない」とするなんらかの分析をしているのだろうか。まさか、国内旅行需要喚起策として1兆7000億円を予算化した「Go Toトラベル」キャンペーンへの影響を危惧してるなんてことはないと思いたいけど。国土交通省の赤羽大臣が「できれば夏休みの早い段階での事業開始を目指す」とか言っているので勘繰ってしまう。

 症状があるから検査していると思われる「調査中」の人が1日50人発覚し入院につながると、東京だから許容できるのであって、地方はそうは行かないかもしれない。東京からの移動者を受け入れて東京並みの感染率に医療機関が耐えられないのであれば、それは受け入れ側の各県が具体的な数字を持って首都圏民に自粛を要請する話で、小池都知事の言うべきことではない気がする。また、緊急事態宣言下においても生活物資を運ぶ物流は稼働しており、それに携わる多くの人の行き来はあったわけで、東京での感染者数の増大が地方にどう波及するのかしないのかきちんとした研究を期待したい。

 ちなみに、充分なのかと言われ続けてきたPCR検査数は東京で、退院確認での検査を除いた数字で、6/29-7/5の1週間で14,898 件、1日平均2000 件を超えている。2000件に対して陽性者が100人=5%の陽性率なので、6/1~6/7に厚労省が行った抗体検査での東京の数値1971人中2人の0.1%に比べると、抗体検査が過去に遡ってカウントされることも含めて、PCR検査の陽性率は非常に高いと言える。これは、まだまだ「感染の疑いがある人しか検査をしていない」ことを示している。7月6日に開催された「新型コロナウイルス感染症対策分科会」では、「感染の可能性のある医療関係者などへの徹底した検査」に加え、「症状がなく感染している可能性の低い人への検査」についても言及された。
 会議資料はこちら (121頁ある資料の63頁から「検査体制の拡充するための、基本的考え・戦略-感染症対策と社会経済活動の両立をいかに?」)

 報道では「検査では誤った結果が出ることもあるから、感染の可能性が低い人への検査をどうするかは国民的な合意を得る必要がある」と紹介されていて、偽陽性を問題視しているようなのだが、それは再検査すればいいだけなんじゃないかな。Jリーグのように「安心」を具体化するための検査なら偽陽性と再検査はなんら障害にならないし、飲食業や観光業をはじめ、音楽や舞台など、選手と観客に距離のあるJリーグよりもはるかに「安心」を必要としている産業はいっぱいあると思う。宿泊費が安くなるキャンペーンよりも、徹底した検査で「安心」を広げられれば、経済は息がつけるんじゃないだろうか。

 ただし、一般消費者に対する検査は、確かに議論が必要かもしれない。新型コロナウイルスへの罹患やその家族への差別、感染経路への理不尽な圧力が、残念ながら容易に想像できてしまう。

 と書いていて、本日の東京の感染者数の速報値。106人。


おまけ

 コロナウイルスの感染防止対策として日常的に使われるようになった「ソーシャル・ディスタンシング」と「ソーシャル・ディスタス」という言葉。今は、同じ意味で使われてるが、本来、「・ディスタンシング」は免疫学的に「物理的な距離」をとることで、「・ディスタンス」は子供の社会性に関する研究や、黒人やエイズウイルス感染者への偏見による接触忌避のような「心理的な距離」のことを言うらしい。(資料

 アメリカでは、コロナによる「・ディスタンシング」環境下においても、黒人などへの「・ディスタンス」を見直す Black Lives Matter 意識が広がっている。はからずも同時発生した「物理的な距離」と「心理的な距離」の問題が切り分けられて、並立して、それぞれ大きな社会問題、ムーブメントになっている。あれだけ感染者と死者を出し続けている中での市民の行動力がすごい。

 一方日本では、過剰な「・ディスタンシング」意識が、医療従事者とその家族を差別するといった「・ディスタンス」問題を引き起こしていたり、実質的に仕事や就学で、東京との「・ディスタンスシング」がとれない隣接共存関係にある神奈川県や埼玉県、千葉県と行った行政が、東京都への「・ディスタンス」まがいの要請を県民に促したり、「物理的な距離」と「心理的な距離」が、さらには、同調圧力という「世間的な距離」も加わって、「距離」の意識が混濁している。

 地方が首都圏民への観光の扉をどう開けるのか。
 マスクを付けなくても隣人と会話できる日常をどう取り戻すのか。
 「物理的な距離」と「心理的な距離」と「世間的な距離」をきちんと整理して、「安心の復興」を目指すことになる。


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