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僕が見た世界、君が居る未来 #11【小説】
二人の距離感
太陽が傾き、西陽と夕陽の境界のような光が廊下を照らす。嘉島と恵莉は教室を出て体育館に向かっていた。
嘉島が2人の沈黙に耐えられなくなった頃、ずっと疑問に思っていた事を聞いた。
「ずっと普通に、日本語で会話してるけど、日本に住んでたことあるの?」
「いいえ。日本に住んだ事はないです。昔家族で1週間ほど日本に旅行に来た事はあります」
「その1週間で日本語できる様になったの?」だとしたら天才だ。
恵莉は思わず笑ってしまった。
「そんな事、私は無理ですよ〜!」
「だよね、語学の天才かと思った」
「時間をかけて勉強したんですよ。父が日本人なので、家では日本語と英語がゴチャ混ぜの環境ってこともありますけど」
嘉島は日本生まれ日本育ち、過去の記憶も同じで、そんな環境の想像はつかなかった。ドラマとかで見た事ある気がするが。
「父の影響で、物心ついた頃は簡単なコミュニケーションは日本語で出来たんですけど、文字の読み書きとか、難しい言葉はサッパリでした」
「でも今や、敬語とか授業で使う言葉とか、日本人と遜色ないと言うか、すごいね」
「はい!沢山勉強しました!」
恵莉は、貴方に会いたくて、なんて、流石に言えなかった。
「13歳の頃に家族で旅行に来たんです。それもきっと私が日本語を、もっと勉強するきっかけになったと思います」
嘉島は恵莉の話を聞きながら、同じ13歳の頃を思い出していた。
その頃の記憶と言えば、夏休みが終わる前の1週間、謎の高熱で入院したことぐらいだ。
何処からか、運動部が部活をしてしている声が聞こえる。
「もうすぐ、体育館。日によって違う部活が使ってるんだけど、今日はバトミントンと、バスケ部かな」
体育館は外につながる入り口と、校舎内からの入り口の2つがある。嘉島は校舎側の入り口から体育館を見渡しながら恵莉に説明する。
「奥に壇上があるだろ、あそこでかったるい校長の長話がされたりする。ダンス部が基本的に使ってるかな」
「校長先生の話が長いのは何処も同じなんですね」
スコットランドの学校も校長の話は長いらしい。
「見たらわかると思うけど、奥側がバトミントンで手前側がバスケ部だね、基本的には2つに分けて使ってる」
嘉島が恵莉に説明していると、体育館がザワザワし始める。するとバトミントン側から走ってくる生徒がいる。
「恵莉ちゃーん、来てくれたのね!」
三島は自分の腕で、恵莉の腕をがっちり挟んで離さない。
「え!三島さんなんで」
「言ってなかったか、三島はバトミントン部で部長なんだ」
三島は顔の横で目を挟むようなピースをする。古くないかそれ。
「しかもほら、ヒメ、私の実績を言って!」
「はいはい、三島は個人で全国3位、団体で全国5位、うちの学校はバトミントンが何故か強い」
「何故かじゃない、私がいる。それに皆んな真剣だからこその結果」
三島の自慢を聞きながら嘉島と恵莉はいつの間にか、コートまで連行されていた。
「みんなー、紹介するね。転校生のティターニア・恵莉さん。今日、最大の話題の美少女を連れて来ましたー!」
三島が呼ぶ前にはもう集まっていたので、呼ぶ必要は無いがそこは部長らしさが出ている。
恵莉はあっという間に女子に囲まれて、嘉島はあぶれてしまったので、ダンス部にいる冴島(さえじま)に会いに行った。
「おーす、冴島。やってんな」
「おい!嘉島!誰だあの美少女はお前と2人で来たからビックリしたぞ」
冴島は高校1年の時のクラスメイトである。学年が上がるとクラス替えがあり、今は違うクラスにいる。
「うちのクラスの転校生。名前はティターニア・恵莉、スコットランドとのダブルだってよ」
「はー、近所にはいないタイプだな」
「近所っつうか、日本にいないタイプだろ」
「確かに。お近づきになれませんかね、嘉島先生」
「紹介しても良いけど、期待しない方がいいぞ。どうせ東京の大学に行って、すぐここから離れるんだろうし」
「ばか、いいんだよ。挨拶してお互いを認識したって事が重要なんだよ」
そうゆう奴もいるぐらいで、嘉島は特に共感できなかった。
「ヒメ、部活再開するので、恵莉ちゃんを返します。ちゃんとエスコートするのよ。」
嘉島はエスコートって、ぐるっと学校回るだけでそんな大層なことじゃないだろと思う。
「じゃあね、恵莉ちゃんまたね」
「はい。また」
三島は部員の下に行き、部長モードで声をかけ、再開を促した。
「ティターニアさん、囲まれて大変だったな」
「いえいえ、皆さん優しくて楽しかったですよ」
嘉島の隣で冴島がソワソワしている。
「ティターニアさん、戻ってすぐで申し訳ないんだけど、コイツが紹介して欲しいって言うんで、話聞いてやってくれるか」
恵莉は軽く頷いて嘉島の隣の男子生徒に目を向ける。
「ティターニアさん、初めまして。冴島宗介(さえじまそうすけ)です。嘉島とは1年の時友達になって今はクラスが別れちゃったんだ。でも時々こうやって会いに来るって関係。よろしくね!」
恵莉は嘉島の意外な交友関係にすこし驚きつつも、自己紹介と雑談をした。
「じゃあ、そろそろ行くから、またな」
「おう、また会いにこいよ。踊るならなお大歓迎」
「いいや、踊らないよ!」
恵莉と嘉島は部活の邪魔をしないよう、体育館の端を沿って歩き、入って来た扉から校舎に戻る。
「次は校庭かな、ていっても外履きに変えるの面倒くさいから廊下から見るだけで、そのまま部室棟に行く感じだけど、いいかな?」
「はい、大丈夫です」
廊下を歩いていると校庭で野球部とサッカー部が練習してる様子が見える。
「野球部とかサッカー部ってスコットランドの学校にはあるの?」
「野球部は無いですね、サッカーはプロチームが強いらしくて、その影響で部活みたいなものはありますよ」
嘉島は何処まで聞いていいのか、分からず踏み込み過ぎないように気をつけて話していた。ただ、その弊害で2人の会話の間に沈黙が流れる瞬間がある。
「ティターニアさんは何かスポーツはしてたの?」
「昔はバトミントンをやってました」
「そうなの!じぁあ部活入ってみたら?」
「いえいえ、そんなに上手く無いですよ。いつからか、趣味程度にしかやらなくなっちゃったので。部員の皆さんに迷惑かけちゃいます」
しかし、恵莉はもう一つの理由は言わなかった。何故ならそれは恵莉の能力に起因する。
「あそこに見える少しボロい建物が、部室棟。そこのデカいのドアから、連絡通路使って行く感じ」
「部活動の全部が入ってるんですか?」
「いいや、運動部だけ。他の部活は専用の部屋が校舎のどっかにあったり、無かったり」
嘉島と恵莉は部活棟を過ぎて図書館へと向かう。
「まあ、図書館って言ってもそんなに大きくは無いんだけど、自習室みたいに使ってるかな」
2人が図書館に到着し中に入ると、1人に仕切られた机や、数人で囲める机にパラパラと生徒が座っている。少し館内を散策していると、向かい側から林道がくる。
「あら、恵莉ちゃんに、嘉島何しに来たの?」
「何しにって案内だよ」
「あっそ。恵莉ちゃんさっきは大丈夫だった?」
「え、あ、はい、大丈夫です」
恵莉は口元で人差し指をたてて、「しー」という。林道は察して本棚に向かう。
「なんかあったのか?」
「秘密です」
秘密と言われると、嘉島も引き下がるしか無い。
林道は目当ての本を手に取り、その場を去った。嘉島と恵莉は図書館を後にし教室へ向かった。
教室に着く頃には、夕日は落ち、薄暗くなっていた。
嘉島と恵莉は帰り支度をして、帰る方向が同じだったので途中まで送る事にした。