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映画「千年女優」の井田は名脇役

(※本記事は多少のネタバレを含む可能性があるため、まだ映画を観てらっしゃらない方はご注意ください)
先日、音楽制作を共にがんばっているmidorimi氏と共に、リバイバル上映をしている「千年女優」(2001年作品)を鑑賞してきた。

ネットフリックスにて実は一度鑑賞していたのだが、映画館の大スクリーンと良き音響で鑑賞できる機会が訪れたため、midorimi氏の誘いを受けて映画館へと足を運んだ次第である。

実を言うと、千年女優は私がこれまでみてきた数百本の映画の中でも1位2位を争うほどの名作だと存じている。

ストーリーはさることながら、そのストーリーを彩る展開のされ方、そして劇伴音楽(我が心の師匠)が絶妙にマッチし、ことあるごとに私の涙腺を刺激してくる。

そんな千年女優の中で、私が特に「印象的だ」と感じたのが脇役の「井田」である。

おそらく、千年女優という映画を支えているのは井田であるし、井田なくして千年女優は成り立たない…とさえ感ずるのである。

では、なぜ井田が名脇役と言えるのか、私の所感を述べていこうと思う。

そもそも、「井田」とは誰か

井田とは、千年女優における「カメラマン」の本名である。28歳。
千年女優の主役でもある「千代子(現年齢70歳ほど)」のことを「過去に有名だった女優さん」ほどの認識である。

そのため、映画序盤に千代子のいない場所でちょっとした悪態をつくが、井田が所属する映像制作会社の社長である「立花源也」から激昂される。

なぜ、井田が名脇役となりうるのか

井田は名脇役だと私は思っているが、その理由として大きいのが「千年女優」のストーリー(というより映像)展開にあるのではと感じる。

千年女優の展開はかなり斬新で、千代子の記憶や思い出が根幹にありつつも、これまで千代子が出演した映画の名シーンなどになぞらえて進行していく。

最初はその記憶/映像の中で傍観者だった源也(社長)も、大ファンである千代子が目の前でそのような演技をしているもんだから徐々に気持ちが昂り、ついには千代子の展開している記憶映像の中で自分も登場人物の一人になってしまう。

そう、ここで井田が「名脇役」と言える所以が発生する。

例えば、もしこれが井田も源也と同じく千代子の大ファンで、千代子の展開している記憶映像に登場人物の一人として出現し、源也と一緒になって千代子を応援する係になってしまっていたら…。

その展開されている「記憶映像」が、今実際に起こっていることなのか、それとも千代子の記憶の断片なのか…を観客である我々が即座に判断するのが難しくなるのである。

その点、井田が千代子の大ファンではなく一歩引いた立場にいて、源也のように入り込んでいなければ、私たちは即座にそれが「千代子の記憶」として認識する。いわば一つの記号として機能していると言えるわけだ。

映画中盤で京の都における花魁のようなシーンがあるが、あそこでも井田は傍観者であり、服装は現代のままである(確か…)。ゆえに、我々はそれが「千代子の記憶」として認識できる。

このように、井田は千年女優における「記号」として考えられるわけだが、それ以上に井田を名脇役たらしめている理由がある。

それが、「井田は我々映画鑑賞者の代弁者なのでは」という考察である。

先ほどと同じように、「もし井田も千代子の大ファンだったら」と考えてみよう。

源也と同じように千代子の記憶映像にどっぷり浸かり込み、源也の突拍子もない映像乱入に子分さながらに入り込むであろう。

そうなると、「千年女優」という映画そのものがシラけた印象を与えてしまうのではと危惧する。

私たち鑑賞者は千代子がどれだけすごい人物で、過去にどれほど有名だったのかを知らない。
知らないがゆえに、源也のオタクめいた行動の数々はある種奇怪な現象として写り、いわば「内輪ネタ」のような閉塞感を与えてしまう。
そこに井田も加わったとなればもう内輪どころか閉塞も閉塞。進撃の巨人も真っ青のウォールGENYAの完成だ。

一方、本来の井田は、私たち鑑賞者と同じく千代子をほとんど知らない。
知らないがゆえに千代子に深く入り込まず、源也の突拍子もない行動に対して「何してんねん!!」とツッコミを入れるところも多々ある。

映画を観ながら私たち鑑賞者が思ったり感じたり考えたりすることを、あらかじめ予期するかのような形で井田が代弁してくれているのである。

つまり、井田がいなければ(井田が…というより、井田的存在がいなければ)千年女優という斬新な展開をされていく映画をまとめることができないと言えるのではと考察したわけである。

千代子と源也で物語の大枠を作りつつ、井田はそれらをまとめ上げるような。そういう印象だ。
味噌汁で言うところのお出汁的な、なんかそんな感じである。

そんな井田に、乾杯。


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