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幡野広志さんの『写真集』を買いにTOBICHIへ行った話

気持ちよく晴れた日曜日の朝、ぼんやりとTwitterを眺めていたら、糸井重里さんと写真家の幡野広志さんによる対談の最終回が、ほぼ日で公開されたことを知った。
パソコンの前で少し背筋を伸ばして座り直し、一気に読んだ。久しぶりに、Webの記事で泣いてしまった。

幡野さんは1983年生まれのカメラマンだ。「多発性骨髄腫」という病、わかりやすく言うと「がん」と告知されている。発病の1年前に生まれた長男の優くんは、今年3歳になる。

ぼくは、幡野さんが息子や奥さんと向き合う姿勢が好きだ。

写真や、文章や、話す言葉から、家族との時間を1分1秒でも大事にしたいという真剣さが伝わってくる。余命を宣告されるようなギリギリの場所に立つ人の、鬼気迫るものを感じるときもある。

ぼくは、自分がこれほど真剣に息子たちや奥さんと向き合えていないのを知っている。向き合えたら、きっと一生ものの発見がいくつもあるのだろう。そうありたいな。
そんな気持ちを重ねながら、幡野さんが家族と向き合う姿を追っているんだと思う。

糸井さんとの対談は、全5回。ぜひ読んでほしい。
ぼくのように、家族との向き合い方に迷うことがある新人のお父さんや、あと新人のお母さんにも、きっと得られるものがある。

あとは、文章や写真やイラスト、デザインなど「伝える」ことを仕事にしている人にもおすすめしたい。幡野さんが見つけた「被写体」の話は、自分らしい表現に欠かせないことだと思う。

そんな対談を読み終えた余韻に浸りながら、少しぼーっとした頭で考えていた。幡野さんの『写真集』をほぼ日の直営店「TOBICHI(トビチ)」へ買いに行けるのはいつだろう?と。3月になれば書店でも買えるみたいだし、それでも良いかなと思っていた。でも、連載を読んで、幡野さんが「見てきたもの」を早く知りたくなった。あと、購入特典の「小さい優くんの写真集」がどうしてもほしくなってしまった。

よし。行こう。

午後は、奥さんが用事で外出する。なので、4歳の長男と7ヶ月の次男をひとりで相手しなくてはいけないという数的不利な状況だ。そのうえ、人が渦巻く都心へ出かけるというのは、ぼくのとってそれなりに不安なプランではあったのだけど、行こう。決めて動けば、あとはなんとかなる。

実際にベビーカーを押しつつ幼児の手を引きながら歩いてみると、ダンジョンのような渋谷駅ではエレベーター3回乗り継がないと山手線ホームに行けないし、表参道ではバリアフリーな飲食店を探すだけでもひと苦労だったし、長男は住宅街の真ん中で急に「おしっこ」と言い出すし、想像以上にいろいろ大変だったけど、無事に『写真集』を買えた。

そして、TOBICHI2では『写真集』の写真展というダジャレのような企画をやっていて、それが本当によかった。

渋谷や表参道の、横断歩道の信号待ちに人が渋滞するような場所から足を運ぶと、店内は地元の居酒屋みたいにのんびりできる雰囲気だった。入口で「ベビーカー預かりますよ」と声かけてくれたスタッフさんとか、その気遣いや言葉がすごくありがたかったです。

写真展は、写真だけではなく、幡野さんのメッセージや動画も観ることができた。
対談で語られていたように、幡野さんが見てきたものを自分に重ねるような空間だった。抱っこしている次男と、手をにぎる長男を写真の中の優くんに重ねて、「ああ、そういう表情するよな」「こういう顔を残しておきたいな」「こんな風に見つめてるんだな」と独り言のように考えながら、ゆっくりと重なる時間を過ごした。自分の中に他人が入り込んだような、不思議な時間だった。

ひととおり見終わったころ、長男が「電車が見たい」と駄々をこねだした。
父親の様子をじっと見てたんだろう。最初はぼそっとつぶやき、徐々に主張は強くなった。わかったよ。付き合ってくれてありがとう。最後は手を引っ張られながら写真展の会場を出た。ベビーカーに戻った次男は、寝息を立て始めている。

すると、会場に入るときには見当たらなかった幡野さんが、会場の入口でほぼ日のスタッフさんと談笑していた。
ベビーカーの次男を見て、ぼくらと幡野さんとのあいだに微笑みが広がった。「かわいい」とスタッフさんの声。
来てよかったな。そう思える、あたたかい時間だった。

TOBICHIでは3月10日(日)まで、写真集の写真展を開催しています。
購入特典として「小さい優くんの写真集」がもらえます(写真左)。

(右の書籍は以前に購入したものです。白い表紙がきれいで、並べて撮りたくなりました)


Webコンテンツから始まったごきげんな日曜日だった。一連の思い出の入場チケットとなった『写真集』と、体験を演出してくれたほぼ日の対談とTOBICHIというコンテンツのこと。ぼくはきっと、5年後も忘れない。


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