【本】AIで死者は蘇るのか、AIは心を宿すのか− 『はるか』
先日の「ルビンの壺が割れた」に続き、宿野かほるさんの「はるか」を読んでみました。主人公が不慮の事故で亡くなった妻をAIで甦らせる話です。本のルビには「究極の愛を狂気を呼ぶのかもしれない。」「近未来の愛を予言した衝撃の恋愛小説」とあります。ネタバレはしません。感じた事を記録しておきたいと思います。
この作品を読んで、昔NHKで見た「AI美空ひばり」のドキュメンタリーを思い出しました。小説の内容はかなりこのドキュメンタリーで見た事に近いと感じました。
亡くなった美空ひばりさんをAIで蘇らせ、新曲を披露するという、ファンにしてみれば夢のようなプロジェクト。ここにはひばりさんの数多くのデータ、記録がAIに読み込まれ、そして小説と同じように莫大な費用とディープラーニングからAI美空ひばりさんが実現しました。この年の紅白歌合戦にAI美空ひばりさんが出演し、賛否両論や倫理に対する意見や「死者への冒涜」と批難されたり、取り上げられる事が多々あり記憶に新しいかもしれません。宿野かほるさんの小説は2018年6月に発行されているのですが、最早これは小説だけではなく、もう、実現可能な事なのです。
人類は古代から「亡くなった人にもう一度会いたい」という願いを持っています。小説の中にも次のような文章がありました。
AI美空ひばりでは、ひばりさんはAIで蘇り、かつてひばりさんのファンだった方、親族、お仕事を一緒にした方、みんな、ドキドキしながら再会を果たし、そして涙を流してAIひばりさんの歌を聞いていました。亡くなったひばりさんに会いたい、また歌を聞きたい、その気持ち一心にメンバーはこのプロジェクトに関わっていました。批判が向けられることは、プロジェクトチームの想定内でした。だからこそ、秋元康さんをはじめ「美空ひばりさんの音楽に真剣に向き合う人たちが全力を出し合って作った」と、開発者はインタビューで答えています。
そしてAI美空ひばりさんが目の前で現実となった時、新曲を聞き(ご本人が歌っているのではないのに)、心が動かされ、全員が涙していたのです。
宿野かほるさんの「はるか」も、主人公の心は動かされ、そして自分の将来の選択まで影響を受けるようになってしまいます。AIは心を宿してはいない、しかしながら人間の心を動かすだけではなく、行動まで作用するようになってしまうのです。
今回の作品を読んで、既に現実のものとして捉えると共に、死者をAIで蘇らせる事は出来、我々はそれによって心動かされる事もNHKドキュメンタリーで実証されました。死者をAIで蘇らせる事は生きている人のエゴなのではないかと思う反面、自分も亡くなった人に会いたいと切に願う事は時にあり。深く考えさせられる作品でした。