「おじいさんのお寺」を継いで
愛知県岡崎市の正覚寺は昨年末、若い住職に代替わりした。33歳の石川滉希住職が思い描いているのは「おじいさんのころのようなお寺」だ。先々代の住職だった祖父の背中を追いながら、自分らしさも加えて、受け継いだお寺を盛り立てていこうとしている。
蓮如上人の阿弥陀如来絵像
――正覚寺を紹介していただけますか。
「お預かりしている南岡山正覚寺は、JR岡崎駅のすぐ西側にある真宗大谷派のお寺です。
540年前に、今の西尾市でお生まれになった誓珍法師が、遠く京都の蓮如上人を訪ねて仏法を聴聞していたところ、蓮如上人からご本尊の阿弥陀如来さまの御絵像をいただいて、帰ってこられました。西尾にあった道場を岡崎に移して、その道場が正覚寺の始まりと言われています。
私のおじいさんが先々代の住職をつとめていまして、伯父が引き継ぎ、そして2023年11月、私が18代目の住職として後をやらせてもらっています」
――お若いご住職の就任をご門徒さんは喜んでいらっしゃるのでは?
「私はおじいさんっ子だったので、亡くなったおじいさんが喜んでいるよとか、一緒にお参りしてほしかったなあとか、やってくれてありがとうねとか、そんな言葉をかけていただくことがあります。
実は、私は学生のころ、僧侶になるぞという気持ちをあまり持っていなかったんです。ただ、おじいさんの背中を見て育ちまして、いつも法衣を着て出掛けて帰ってくるのを見て、なんの仕事をしている人だろうと身内ながら思っていました。それで、おじいさんが卒業した京都の大谷大学へ行かせてもらいました。卒業の時には就職活動もしたのですが、結局、岡崎に帰って来て、三河別院に入って僧侶の道を歩もうと決めました」
――最後まで迷われていたんですね。
「私がイメージしていた“お寺さん”というと、ご門徒さんにものを伝える職業だと思っていたのですが、私はそういうことが不得手で、すでに出来上がっている輪の中に入っていくことが苦手。ご門徒さんは私より倍以上の経験がある方がほとんどですし、不安がありました」
あのやんちゃ坊主がお経を!
――実際にお坊さんになられていかがですか?
「誤解をされてはいけませんが、楽しくお参りをさせてもらっています。趣味を尋ねられると、お参りと答えたいくらいです。私は周りの人に合わせておつとめをするタイプなのですが、家によってお経を読む癖があるので、次回はもうちょっと声を高くした方がいいかとか考えたりしています。それに、ご門徒さんはいろんなことを知っていらっしゃるので、聞かせていただきたいと思っています」
――お寺で育ったというご住職は、どんなお子さんだったのですか?
「やんちゃ坊主でした。身に覚えがないと言えばウソになるんですけど(笑)。ほかのお寺の本堂の下に潜り込んで、焚火をやろうとしてしかられたこともありました。今、そちらのお寺にお参りに行かせてもらうと、当時を知っている方から『あのやんちゃ坊主が法衣を着て、正座して、お経を読んでいる』と驚かれています」
大学でバレーボール部を再興
――スポーツとか、学生時代に熱中したことはありましたか。
「中学までは野球をやっていまして、高校時代はバレーボールに打ち込んでいました。大学に入学した時にもバレーボールをやろうと思ったんですが、バレー部は何年か前に部員が少なくなり、なくなっていたので、自分でバレー部をつくりました。一人で体育館へ行って、ネット張って、ひたすらサーブの練習していました。サーブを打って、ネットの向こうに取りに行くということを一人でやっていたので、隣のバドミントン部の人たちは不思議に思っていたんじゃないでしょうか。途中から先輩が一人加わり、先輩の知り合いの人が集まって、最後は試合に出ることもできました。卒業した後は人数が増えて、活発に活動しているみたいです」
――引っ込み思案な性格だと言っていましたが、なかなか行動的、積極的なお話ですね。
「なにもない状態からやってみるのは得意なんです。ただ、すでに出来上がっている輪の中に入っていくのはやっぱり苦手でして、昔から正覚寺の境内でボーイスカウトのみなさんが一生懸命に活動してくださっていますが、そういう輪に入っていくのは身が引けてしまいます。子どもたちも私を見ると、法衣を着ているもんだから、『なんだ?この人は』という雰囲気になってしまうので、私は遠慮してしまいます」
妻の「在家の目線」に感謝
――今もボーイスカウトのみなさんは活動されているんですか。
「そうですね。たまにお寺の手伝いをしていただくということもあります。ボーイスカウトの子どもたちが大人になった時に、またお寺に来てお参りしてくれるかとか、お寺へ遊びに来てくれるか、と考えると、なかなかそうじゃないというのは不思議ですね。
私は4年前に結婚したのですが、妻はお寺の生まれではなく在家の出身なので、一般の目線で意見をくれるんです。今年の秋には、境内に落ちたイチョウの葉っぱを使って、ハートの形をつくったり、お寺の名前を地面に書いたりしましたが、そういうアイデアをとてもありがたく思っています。
私たちは正覚寺の本堂で結婚式をして、指輪交換ではなく念珠の交換をしているんですが、お寺では結婚式もできるとか告知して、盛り立てていければいいなあと思います」
――お寺での結婚式ではロウソクを立てるんですよね。
「お寺のロウソクは、普段は赤色だったり白色だったりするんですけど、結婚式は金色のロウソクを使います」
「型を覚えて型にはまらず」
――正覚寺さんは、矢田石材店が本堂でのお葬式をサポートする「お寺でおみおくり」のご賛同寺院になっています。
「先代の住職が賛同したのですが、私自身は正覚寺の本堂でお葬式をしたところを見たこともないんですよ。だから、本堂でやりたいと言われても、どこから手を付けていいのか分からないという状態で、戸惑うところもあります」
――近年は葬儀会館でのお葬式が一般的になっているので、お寺での経験がないご住職は意外と多いんです。経験のあるご住職から教わったり、模擬葬儀を行ったりして、矢田石材店のスタッフも一緒に、お寺ごとのお葬儀をつくりあげていく感じです。
「お互いにまだまだ勉強しないといけないですね。僧侶の先輩に言われた言葉で『型を覚えて型にはまらず』というものがあります。お寺の儀式や作法には決まりがありますが、それぞれのご門徒さんのやり方もあるので、それを大事にしなさいということです。まさにそういうことですね」
門徒さんとの距離を近く
――これからどんなお寺にしていきたいですか。
「子どものころに見ていた、おじいさんが住職をやっていたころのようなお寺です。活気があるというか、お寺で法要などつとめてなくても、ご門徒さんが山門をくぐって、『ちょっと近くに来たからあいさつに来たよ』とか、『畑で野菜が採れたから食ってくれ』だとか、法衣を着た人間とご門徒さんの距離が近いお寺ですね。
そういうお寺の住職になれたらいいなあと思っているんですけど、おじいさんは僧侶としてオーラをまとっていたらしくて、ご門徒さんの中には『偉い方にこういう質問をしてはいかんかな』と、なかなか話をしにくいところもあったそうなんです。私はどちらかというと、何でも質問しやすくて、この人だったらなんでも話を聞いてくれるなあという雰囲気の僧侶になりたいと思っています」
永代供養のついた安心のお墓「はなえみ墓園」。
厳かな本堂でのお葬式を提案する「お寺でおみおくり」。
不安が少なく、心のこもった、供養の形を、矢田石材店とともに考える、お寺のご住職のインタビューをお届けします。
毎月の第2、第4月曜日に更新する予定です。
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