「原酒でも水割でも、肝心なのはウイスキーを味わうこと」
愛知県岡崎市にある西福寺の山下存亮住職(58)は、ユーモアを交えながらも、「お寺の本筋を外してはならない」ときっぱり語る。市井の人々にはなかなかとっつきにくい仏教の教えを、どうしたら伝えられるのか、と考える。
鎌倉時代の創建か?
――西福寺について教えていただけますか。
「名鉄美合駅の近くにある浄土真宗本願寺派のお寺です。創建ははっきりとわかっていません。戦国時代と、先の大戦の岡崎空襲との、2回の火事で資料が失われてしまいました。私のひいおじいさんが言い伝えをまとめた冊子があって、鎌倉時代の終わりの創建じゃないかなという感じです」
――歴史のあるお寺ということですね。
「美合のあたりでは一番古いです。
山号は『普門山』。普門とは『法華経』『普門品(章)』からの命名のようです。
天台法華宗(天台宗)のお寺であったのを室町時代末期、当寺の住職が本願寺の蓮如上人に邂逅し、浄土真宗(本願寺)に転派し、今に至ります。
NHKの大河ドラマ『どうする家康』の中でも描かれていましたが、本願寺のお寺は徳川家康と戦って所払いされました。うちのお寺もご本尊を持ってあちこちに逃げていて、岡崎市針崎町に勝鬘寺という三河でのリーダー的存在のお寺があって、そこに集ったようです。三重県長島町に、その当時、織田信長と激しく戦った願証寺というお寺があり、そこまで行っていたという記録もあります。
江戸時代の初めに、東海道が通って、そのそばに建てましょうとなり、美合に戻ってきたようです」
「京の昼寝」から帰郷
――ご住職はどういうご経歴ですか。
「このお寺に生まれて、京都にある宗門の大学、龍谷大学に入って真宗学を専攻し、大学院へ行って、そのまま大学職員として働いていました。そして、30代の半ばで岡崎に帰ってきました」
――長く京都にいらっしゃったんですね。
「坊さんの世界というか、学問的な世界には、『田舎の学問より、京の昼寝』ということわざがあります。この場合の京とは学問の本場を意味しますが、田舎で必死に勉強するより、都会で昼寝をしている方がよっぽどか勉強になる、という意味です」
――京都でしっかり勉強されたんですね。
「そうではなく、本当に昼寝をよくしていました。だから帰ってきてからの方がよく勉強をしているかもしれません」
お墓の悩みに対応できそう
――西福寺に今春、「岡崎美合はなえみ墓園」がオープンしました。
「お骨をどうしようか、もうお墓をしまおうと思っているけどどうしようか、という人が増えてきたんですね。西福寺で預かっているお骨もあります。最近はどこのお寺でも同じようなことがあると思いますが、そもそもは、そういう方たちのニーズにこたえるにはどうしたらいいかと考えていたんですね。
とりあえず合同墓をつくって、でも、いきなりは多くの人のお骨と一緒にしたくない、されたくない、という方もいる。将来もしかしたら別個にお墓を建てることになるかも、という方のお骨を預かる、少しの空間があったらいいなとも思ったんです。お墓が必要ないとその時に思っていても、将来、お墓ブームが来て、建てたくなるかもしれないですよね。その時にお骨がなかったら建てられません。納骨しても、その後どうするのかを考える『猶予期間』に、といった感じですね」
――ご住職の考えとはなえみ墓園がつながったのですね。
「そこで矢田石材店を紹介されて、はなえみ墓園というのがあると聞きまして。お墓をいま建てても面倒をみることができないからどうしようとか、合祀でもいきなり入るのはかなわんという人も、はなえみ墓園なら、そういったお墓のお悩みにもフレキシブルに対応できそうで、なかなかいい考えかなと思って、つくることにしました」
本筋伝える仕掛けを整えたい
――これからお寺をどんなふうにしていきたいですか。
「やはりお寺は仏さまの教えを伝えるところなので、そのへんはちゃんとやっていかなければいけないなと思いますね。浄土真宗なので、親鸞聖人が私たちに何を教えてくださったのか、そういうのをちゃんと伝える仕掛けが整ってないといけない、と思います。
その点、私たち僧侶も日々の勉強が大切です。ただ、なかなか伝わらないのも事実です。この本筋の話を突っ込んでできる研修会みたいなことをやっていますけど、参加者はなかなか集まってこないですね」
――マルシェや講演会などイベントを開催して、まずはお寺に来るきっかけづくりをされている例もあります。
「そういうことをやるのは面白いなと思いますけど、それでお寺とご縁ができるかといったら、なかなかできんのですよね。何がええやろなっていう感じですね。そうするともう地道にやるのが一番いいのかなというふうな結論になってきますよね」
分かりやすく、柔軟な伝道を
――先ほどおっしゃったように、仏さまの教えを伝える本筋が大切だと。
「真宗的な筋が通ってないとまずいっていうところがありますけども、これを思いっきり通すと、なかなか人が集まらない。でも、筋が通ってないとグラグラになるんじゃないかな。お寺も迎合しすぎるとグラグラになって、大丈夫かなってな感じになると思います。そこをきっちり抑えつつ、フレキシブルにやれたらいいんですが。
本筋をウイスキーの原酒にたとえると、そのまま飲んだらきついので水で割る。どんだけ割ってもウイスキーはウイスキー、という例えがあるんですけどね。肝心なのはウイスキーを味わうことで、それを何でどんだけ割ろうがいい、という意味で、いろいろチャレンジしたいと思っています。実は私、お酒はほとんど飲みませんけどね(笑)」
永代供養のついた安心のお墓「はなえみ墓園」。
厳かな本堂でのお葬式をサポートする「お寺でおみおくり」。
不安が少なく、心のこもった、供養の形を、矢田石材店とともに考える、お寺のご住職のインタビューをお届けします。
毎月の第2、第4月曜日に更新する予定です。