歴史を受け継いだ、言葉のチカラ<後編>
心を込めたものや経験、場所などについてお話をうかがう連載『ココロ、やどる。』。今回は、ラジオナビゲーターの小林拓一郎さん、通称「コバタク」さんです。名古屋のFMラジオ放送局「ZIP-FM」で軽快なトークをし、愛するバスケットボールではBリーグや国際試合で会場を盛り上げる。そうした声の仕事とは別に、日常の街の中にある「居場所づくり」にも取り組んでいます。その活動で大切にしている、場所や建物の歴史を受け継ぐ想いを、語ってもらいました。後編は、その想いのベースとなった米国北西部のオレゴン州ポートランドについて。
ここでやるから意味がある
ポートランドの中心街は、コバタクさんが入学したオレゴン州立大学のある街から車で1時間半くらいの距離で、4年時には日系アメリカ人の歴史を紹介する博物館でインターンをして、毎日のように通っていた。
「1年生の時はビジネス専攻だったんですけど、2年からエスニック・スタディーズ(民族学)に変えました。人種問題も学ぶ学科です。大好きなオレゴンなんだけど、やっぱ理想郷じゃなくて、差別体験ってのはあります。自分がマイノリティーになった時に、これはなんだろうな、と思って。4年生でインターンシップやらないと卒業できないので、調べてみたらポートランドでミュージアムを立ち上げるタイミングだったんですよ。ミュージアムといっても、グレパーのカフェの半分くらいのスペースで、最初は日系人の女性が1人いるだけで、これから展示を始めていくという。
そのミュージアムの場所がなぜかチャイナタウンのど真ん中なんです。実は元々はジャパンタウンだったんですよ。それが第二次世界大戦中に日系人は収容所に送られて、その間に中国人が入ってきて、日系人が戦後に戻ってきたら自分たちの住むところはなかったということだそうです。
そういう歴史があるからここでやる意味があるんだ、この建物は日系人がよく来ていたスーパーマーケットなのよと、話を聞かせてくれるわけです。土地に宿る歴史みたいなのをポートランドは、アメリカでは珍しく、本当に大事にする。だから、おのずとこう、自分のベースに沁み込んでいったんでしょうね」
世代間のつながりも実感
2014年にはコバタクさんが同行するポートランドツアーが始まった。今年のツアーには小学6年生の長男を連れて行った。
「自分の息子が6年生になったら一緒に旅をしたいと思っていました。
自分が6年生のころ、超反抗期で、親父とはなにもしゃべりたくないという時に、母親が『ちょっとお父さんと二人で旅行行ってみたら』と提案してくれて、車で下呂へ行ったんです。1泊2日で。足湯に浸かって、温泉入って、車中泊で。車の中で寝ていいの?ってなんかワクワクしたし、移動する車中でビートルズが流れてて、へえ、こんなの聴いているんだ、かっこいいじゃんとか、妙に印象に残ってて。いつもは、けっこうあれこれダメだと言ったり、家族全員で出かけるときにはクラシックみたいなの聴いてるのに。
なので、俺だったらオレゴンでしょ、息子が望む、望まない関係なく。
ツアーの日程が終わった後に3日間、無理やり俺の思い出につき合わせるみたいな二人旅をしました。大学寮に連れてったり、ホストファミリーに会いに行ったり、古着屋に行ったり。留学から帰ってからも何度もオレゴン行って、20年以上前の学生時代からずっと同じようなことやってて、『バカじゃない?お父さん』って聞いたら『うん、バカだね、でも、いい意味で、だけどね』と言われました。
実は親父が亡くなる1カ月前、一緒にポートランドに行ったんですよ。その時に撮ったツーショットと同じ場所で、息子と今回写真を撮って、というのもあって、『つながる』っていうことを感じましたね」
歴史背負って得るエネルギー
歴史や世代がつながる感覚を大切にするコバタクさんが名付けたコートとカフェ。コロナ禍もあり、経営は決して楽ではないという。
「苦しくなればなるほど、何のためにやっているんだっけ、と考えるんです。そんな時に名前の持つ力を感じます。歴史を背負っちゃてるから、自分がやめたら誰がその歴史を語っていくの?となるじゃないですか。ここがブドウ畑だったって言い続けないと忘れ去られる。お金儲けがしたいんだったら、薬局がどうこう言う必要はなくて、当時流行していたタピオカの店をやればそれなりに儲かったと思うんですよ。そんなことをしたいわけではないのですから」
上手い下手は関係なくバスケットが大好きな人が集まって自分を取り戻せる場所。来れば楽しいことがあり、出会いがある、遊びの場としてのコーヒー店。それを目指して踏ん張るエネルギーを名前からもらう。
「自分でストーリーをつながないと存在価値が見出せなかったりする。わざとそうしてる部分もあるでしょうね。今の時代、自己肯定感が人生のテーマみたいになってるじゃないですか。表面的なことで自己否定が始まることが多いから、それよりは、俺は好きでやってきたんだから、と勝手に肯定してあげればいいんじゃないかな。だれでもできる話だと思う。それを語る、語らないは別にして」
言葉をしゃべることが仕事のコバタクさんは、「居場所づくり」の活動でも言葉の力を感じている。
<おわり。前編はこちら>
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気持ちや経験などにより、自分にとって特別な存在になることは、みなさんにもあるのではないでしょうか。
そんなストーリーを共有したい、と連載『ココロ、やどる。』を企画しました。
有限会社 矢田石材店