<第2章:その7>お墓を建てることは遺族の使命(前編)
「お墓を建てる」ことと関連した話を、2つご紹介しておきましょう。
まずは、父親の家族が絶縁だったケースです。
ある方のお父さんがなくなりました。お墓を建てるということで、私はご家族に家紋は何ですかと聞くとを、誰もが「知らない」と言うのです。
なぜ知らないのかといえば、
「実は父は、○○県に実家があるらしいのですが、一度も私たちを連れて行ってくれませんでした。実家とは縁を切ったということで、交流もなく、家紋どころか実家のことはほとんど知らないんです」
どうやらご家庭の事情があるらしいのです。しかし、いい加減な家紋を彫るわけにもいきません。実家の住所を知る手がかりはないだろうかと、ご家族の方にいろいろと探してもらっているうちに、1本の電話がかかってきました。
「私たちも知らない方から毎年、年賀状が父宛に送られてきているんです」
ひとりだけ、○○県の人から年賀状が父宛にあったというのです。
「ひょっとしたら、父の知り合いかもしれない。何か知っているかもしれない」
と思い切って電話をしてみると、
「ああ、友人だよ。あいつ、亡くなったのか」
「いろいろと父のことを教えていただきないのですが、お会いできませんでしょうか」
「いいよ、一度こちらにおいで」
と言ってくれたのです。
その方は、父の学生時代の友人だったのです。
そこで意外なことを知らされました。
それは、父が生前、年に1回は田舎を訪れ、実家には顔を出さないけれど、友人を訪ね、また菩提寺にお墓参りをしていたのです。家族の誰もがそんなことはまったく知りませんでした。
驚いたご家族は、その足でお墓を訪れると、なんときちんと管理されているではありませんか。父の友人の方が言うには、父は長男で、何か不都合があって実家とは絶縁の状態だったのにもかかわらず、お墓参りだけは毎年欠かさなかったそうです。
その方から、幼いころからの父の行状や家のこと教えてもらいました。
「そこには自分の考えていた父、自分が今まで接していた父とは違う顔の父がいて、すごく新鮮でした。生前よりも、父とはもっと心のきずなが強まった気がします」
とその方は言いました。
この方の場合には、お墓を建てることによってさまざまな出来事に出会え、乗り越えてきたことが、ご自身の成長につながったと言ってよいでしょう。
現代では、遺族に負担を残したくないと言って生前葬をやられる方もいるのですが、私はこれには違う考え方をしています。
お葬式やお墓をつくるということは、子どもたち遺族にとってみれば、決して負担ではないのです。自分を成長させるための糧になると思います。
それを子どもに経験させないというのは、成長の芽を親が摘んでしまうような気がします。<後編に続く>
<前回まで>
・はじめに
・序章
母が伝えたかったこと
母との別れ
崩れていく家
止むことのない弟への暴力
「お母さんに会いたい!」
自衛隊に入ろう
父の店が倒産
無償ではじめたお墓そうじ
お墓は愛する故人そのもの
・第1章
墓碑は命の有限を教えてくれる
死ぬな、生きて帰ってこい
どこでも戦える自分になれる
お墓の前で心を浄化する
祖父との対話で立ち直る
・第2章
心の闇が埋まる
妻から離婚届を突き付けられて
妻の実家のお墓そうじをする
ひきこもりの30歳男を預かって
心からの「ありがとう」の力
先祖と自分をつなぐ場所
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