<序章:その4>再録『心が強くなるお墓参りのチカラ』
止むことのない弟への暴力
こんな生活の中でも、私は弟ふたりを大切に思っていました。ところがある出来事をきっかけに、私は下の弟をいじめるようになったのです。人間の心にひろがる闇との戦いが始まったときでした。
それは、母が亡くなった翌年の夏休みのことでした。私たち3人兄弟は、親戚のおばさんの家に預けられたのです。おばさんは父の妹で、その子ども(いとこ)は私と同年代でした。
ある日、私たちはカエルを捕まえに田んぼに出かけました。細いあぜ道を歩いている最中、弟が足を踏み外し、土手から田んぼに転げ落ちたのです。土手から田んぼまでは2メートルほどあったと思います。
弟は立ち上がりましたが、驚いたのと、どこか痛くしたせいかで、声を出して泣き出しました。いつもならすぐに助けに行く私でしたが、このとき、泣いている弟がむしょうに嫌いになりました。
「何を泣いているんだ、バカやろう」
叫ぶと、弟に向けて、土手の上から石をぶつけはじめたのです。いくつかが弟にあたり、弟はいっそう激しく泣き叫びました。
私は、その泣き声で、さらに残酷な気持ちになりました。
最初は子どもの手に持てるような、イチゴくらいの大きさの石ころを投げていましたが、周辺に小さな石ころがなくなると、ミカンやリンゴほどの石を見つけて投げ込み始めました。
そして、私はスイカほどもある大きさの石を探し出したのです。それを抱きかかえると、田んぼに向かって投げ込んだのでした。当たり所が悪ければ、命にもかかわるほどの大きさでした。石は弟をそれましたが、大きな水音を立ててすぐ近くに落ちました。
このとき、弟の激しい泣き声を聞きつけた大人が駆け付け、私は押さえつけられました。当然ながら、おばさんたちに、こっぴどく叱られました。
しかし、この一件以来、私は入ってはいけない世界に入ってしまいました。私にも悪いことをしたという思いはあったのですが、それ以上に弱い者を痛めつけることが、こんなにもワクワクすることかという倒錯した発見もあったのです。
このときから、弱い立場の者をいじめたい誘惑に勝てなくなったのでした。
私は事あるごとに幼い弟をいたぶり始めました。
付き合う仲間も、力自慢や喧嘩早い者が増えました。
毎日、学校から帰ると弟を見つけ出し、気が済むまで殴り続けました。弟が泣けば泣くほど爽快で、すべての悪い出来事の原因が弟にあるとさえ思っていました。
そんな私たち兄弟が周囲の大人たちからどう見られていたかといえば、あとで知ったことですが、いずれ不良仲間に入ってチンピラになるだろうと噂されていたようです。
確かに、思い出すだけでも身震いするような、われながら最低の生活が続きました。
<つづく>
「再録『心が強くなるお墓参りのチカラ』」は、月曜日に不定期(2週間おきくらい)でリリースする予定です。
<前回まで>
・はじめに
・序章
母が伝えたかったこと
母との別れ
崩れていく家
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