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「依存症はいつ止まるのか」は、思ってるのと順序が逆
『アルコール依存症の本人が自分の酒に問題があるといつ気づくのでしょうか』全く問題を感じていないように見える本人について、ご家族から私に、幾度となく投げかけられた質問です。
アルコールだけではないです。ギャンブル、ゲーム、薬物、などなど。
ところで、ご家族はどうして本人に、問題に気づいて欲しいのでしょうか。
依存症を止めて欲しいから
ですよね。当たり前でしょ、って聞こえてきそうです。
問題に気づいたら依存症が止まる
と、普通は思いますよね。
ところが、研究によると、アルコール依存症のご本人が、酒を止める時は
シラフの方が楽だと気付いた時
だとわかってきたのです。
シラフでいたら、家族と楽しい時間を過ごせた。心なしか、みんな優しいし。
飲まずにいたら、体が楽だった。飲んだ後のあのだるさと言ったら。
もうウソをつかなくて良いんだ。ホントに呑んでないのだから。企まなくて良いって、なんて楽なんだろう。
自助グループって、胡散臭いと思ってたけど、酷い話も笑って聴いてくれる。ミーティングのあとにする、なんてことは無い雑談も楽しい。正直に話して笑ったのって、何年ぶりだろう。
こんな体験が、断酒への動機付けになるのです。止めるタイミングは
痛い目にあって反省したとき
ではなかったんですね。
つまり、断酒した方が良いと気付くのは、断酒した後なのです。
さらに言うと、アルコールをはじめとした依存症のご本人は、両価性とよばれる葛藤を抱えています。(両価性については、別の項で説明する予定です)簡単に言うと、「右を向けと言うと左を向く」心理状態です。したがって
どれだけ酒で迷惑をかけていると思っているの。いい加減気づいたらどうなの。
というと、飲酒欲求が上昇してしまうため、ご家族にとっては、願いと逆方向に行ってしまうのです。
従って、素面でいたら楽だと感じてもらえるコミュニケーションが重要になってきます。そのテクニック集の一つが、CRAFTです。(これも別の項目で取り上げる予定でいますのでご覧ください)
気付かせようとすると悪化する、と知るだけでも、ご本人とのコミュニケーションが円滑な方向に進むと考えられます。
(2023/12/08加筆 矢田の丘相談室 田中剛)