99.9%同じDNAが語る:『人種』という境界線は幻想だった
人種間の遺伝的違いはどこまで「有意」なのか?
あなたは「白人」「黒人」「黄色人」といった用語を日常で耳にすることがあるかもしれません。肌の色や髪質、体格の差は確かに目に見えます。しかし、それらは私たちのDNA上で、はたして「人種」というカテゴリーに対応するような明確な境界を持ち得るのでしょうか?
99.9%以上は同じDNA:人類は単一種
地球上の現生人類(Homo sapiens)は、約20万年前にアフリカで出現し、その後全世界へ拡散しました。驚くべきことに、全ての現生人類は遺伝子情報の99.9%以上を共有しています。つまり、世界各地に住む多様な人々であっても、そのDNA配列はほとんど変わりません。
わずかな差異は適応の歴史を映す「地理的な特徴」
この「わずか0.1%以下の違い」は、人類が数十万年にわたり各地の環境に適応してきた歴史を映し出しています。たとえば、紫外線量の多い地域では、メラニン色素の多い肌が生き残りやすかったため肌が黒くなり、高緯度で日照量が少ない地域では、ビタミンD合成がしやすい明るい肌が有利でした。また、ヨーロッパなどで乳製品を常食してきた文化圏では、乳糖を消化できる遺伝子変異が広まりました。
「人種」は生物学的分類ではなく、社会的構築物
皮膚や髪色の違いは確かに存在しますが、これらは連続的なバリエーションとして地球上に広がっており、「ここで白人、ここで黒人」といった明確な遺伝的境界は引けません。「白人」「黒人」「黄色人」といった区分は、もともと社会的・歴史的文脈の中で作られたもので、生物学的実態をはっきりと裏付ける「遺伝子上の線引き」ではありません。多くの研究では、人種間よりも、同じ「人種」とされる内側でのグループ間(たとえばアフリカ内の異なる地域集団同士)の方が遺伝的差異が大きいことすら示唆されています。
医療・健康上の違いは「集団ごとの傾向」に過ぎない
特定の集団に特徴的な遺伝形質は存在します。アフリカや地中海沿岸地域ではマラリアへの適応として鎌状赤血球貧血が多く見られ、東アジア地域にはアルコール代謝酵素(ALDH2)の変異が多いなど、医療上考慮すべき集団差も確かにあります。しかし、これらの例はあくまで「特定地域に暮らした先祖が残した遺伝的特徴」に過ぎず、それが「人種」という境界と一致するわけではありません。
結論:人類に有意な「人種」差は存在するのか?
現代の遺伝学や人類学のコンセンサスは明確です。「人種」という分類にはっきりとした遺伝的な根拠は見当たりません。人類はあくまで単一種であり、遺伝子の違いは地域的・歴史的適応の積み重ねです。私たちが目にする見た目の多様性は、長大な人類史の結果として生まれた連続的な変化であり、社会や文化が後付けした「人種」という区分で説明するには不十分なのです。