【エッセイ】「湯が湧いてこないんだけど」はじめての一人暮らし
この間、長野の温泉に行ってきた。
毎年春と秋に訪れている、ごじんまりとした温泉宿だ。かなりバタバタしていたので、準備もそこそこに家を出た。
前の週、ライター仲間が初の小説を上梓した。近所の大型書店はどこも平積みしていたので、出版社も力を入れているのだろう。(noteでも紹介したが実際素晴らしい小説だ)
献本先をいくつか紹介したので、そのやり取りを直前までしていたら、うっかり着替えを入れ忘れてしまった。
宿ではいつもどおり本を読んでのんびりすごした。温泉につかって外を眺めていると、頭のノイズが静まって、段々クリアになってくる気がする。やるべきことが見えてきて、気持ちも前を向く。
もう、4月なのだった。
甥っ子の新社会人生活は大丈夫だろうか、とつい考える。この春から居場所が変わったり、新たな生活を送る人も少なくないはずだ。
宿の娘さんは、はじめての一人暮らしの際、お風呂の沸かし方がわからなかったらしい。源泉掛け流しの風呂で育ったので、湯は湧いてくるものと思っていたとか。
「このアパート、湯が湧いてこないんだけど」
電話を受けた女将さんは、丁寧に教えてあげたそうだ。
私も切れた電球は管理人さんが変えてくれるものと思っていた。電話したら自分で変えてくださいと言われ、届かないと言ったらしぶしぶ脚立を貸してくれた。
きっと、今年も各地でさまざまなはじめての◯◯が見られるだろう。
私はそんな話を聞くのが結構好きだ。
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