読書感想文~他者と働く‐「分かり合えなさ」から始める組織論‐~
おそらく多くの方が働く中で、この人とは分かり合えない、思うようにコミュニケーションをとりながら仕事が進められない、、、と、少なからず人間関係に悩みを感じたことがあるのではないだろうか。~他者と働く‐「分かり合えなさ」から始める組織論‐~(宇田川元一埼玉大学准教授)は、そんな人と人との関係性の問題に一筋の光明を見出してくれる。
失われた過去 失われた未来
News Picksを運営するUZABASEが新たに立ち上げた出版社、News Picksパブリッシング。
本著の最終ページにあるのが以下のメッセージだ。
(同社のWebサイトにも同様のものが掲載されている)
最初の一文がなんとも印象深い。
「失われた30年」に、
失われたのは希望でした
失われた30年とは「過去」の30年のことだ。
【希望】
1 あることの実現をのぞみ願うこと。また、その願い。「みんなの希望を入れる」「入社を希望する」
2 将来に対する期待。また、明るい見通し。「希望に燃える」「希望を見失う」
−デジタル大辞泉−
希望とは「未来」に対して抱くものだ。
失われたのは「過去」だが「未来」が失われたのだと言う。そんな日本の状況にあって、希望を実現し、希望の灯を掲げるということが、News Picksパブリッシングのめざすべきところということのようだ。
少し話がズレるが、本著の編集長は最近ベストセラーにもなった『転職の思考法』(北野唯我著)を担当した気鋭の若手編集者、井上慎平氏。副編集長は『これからの「正義」の話をしよう』(マイケル・サンデル著)を担当した宮川直泰氏だ。二人とも実績は十分。井上氏に至っては、1988年生まれと、今を生きる若者としての視点でも編集を担当してくれるのではないかと期待が膨らむ。News Picksパブリッシングからは、毎月1冊のペースで新刊が発行されるようだ。今後も期待したい。
希望とは何か
本著では「対話(dialogue)」というものをテーマにしている。組織で起こる課題には、既存の知識・方法で解決できる「技術的問題」、既存の知識や方法で解決できない課題で関係性の中で生じる「適応課題」があるとしている。そして、「適応課題」を解決するためには「対話(dialogue)」が必要だとしている。「対話(dialogue)」のために必要なステップを事例等も交え、どのように相手と「新しい関係性を構築」していくかを明らかにしてくれる。既存研究の概念を用いながら、働く一人一人がどのように「対話(dialogue)」を通じて、お互いに分かり合える関係性を構築するか、非常に実践的な内容になっている。組織論とはあるが、会社などのビジネスの分野のみならず、家族や友人関係等、人と人との関係性が発生する場面ではどこでも活用できる内容ではないだろうか。
さて、本著の内容は興味のある方は内容を読んで頂ければと思うが、「希望」という言葉が気になったので、少し深掘りしてみようと思う。
まず、前提となっている、希望は本当に失われたのか?ということについて検証してみる。働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(社会科学研究所)で、希望についての調査がある(元データが開示されていなかったので、希望学(東京大学社会科学研究所)HP開示情報をもとに以下スライド作成)。
将来の自分の生活や仕事に対して希望を持っていると肯定的な回答をした対象者は減少しており、確かに希望は失われてきていると言えそうだ。
では、希望をもつためにはどのような要因が必要なのか。これも希望に関する調査・研究を行っている、東京大学社会科学研究所の調査結果で、「健康」「教育」「人とのつながり」という3点があげられている。
次に、それぞれの要素に関して、日本の状況はどうだろうか。
まず、「健康」の部分。2010年の情報であるが、日本の健康寿命は世界でもトップとなっており、健康面では希望を抱ける素地はありそうだ。
次に、「教育」であるが、大学進学率ではOECD平均62%と比較し51%と平均を下回っている。ただ、一方で子供の貧困率は2012年から2015年にかけて減少しており、教育環境含めた整備は進みつつあるという状況のようだ。
最後に「人とのつながり」の部分は、経年推移の情報が得られなかったが、日本は日常生活での他者交流がOECD加盟国の中で最も少ないという結果になった。また、昨今、孤独死や引きこもり等、孤独に関する報道もよく目にするが、社会課題となっていることは間違いないだろう。
そんな中で、今回紹介した本著の、希望における位置づけとしては、「人とのつながり」をどのように構築していくかという部分がテーマになっていることがわかる。
なぜ希望が必要なのか?
希望はあった方がよいというのは多くの人が持つ意見だろう。では、なぜ希望は必要なのか。ここからは私の持論。
結論から言うと「夢」を持ちそれを実現していくためには「希望」が必要だからだ。
「夢」とは世界に新しい何かをもたらすものだ。キング牧師の「I have a Dream...」の演説はあまりにも有名だが、彼は人種差別の廃絶を夢に持ち大衆に語り掛け、多くの人の心と行動を動かした。現代の日本にこそ「夢」が必要だ。社会には閉塞感が漂い、希望を持てなくなっている。新しい何かを生み出し、社会を再構築していくことが求められている。
夢の実現に向けては次のステップを踏む必要がある。
極端ではあるが、例えば宇宙飛行士になるという夢を実現するステップを考えてみよう。
まず、一つ目の「希望」を持つについて。先ほど紹介した「希望」を支える3つの要因を考えてみる。「健康」については、宇宙飛行士ということだと心身ともに高度な身体能力や健康状態が求められる。また、宇宙空間で不測の事態に対応する場合や各種実験を行う等のために水準の高い「教育」を受けていることも必要だろう。また「人とのつながり」も宇宙空間でバックグラウンドの違うメンバーと一定期間コミュニケーションを取りながら過ごさなければならない。
(宇宙飛行士という極端な例をあげているが、一般的にこれらが高い水準であることで夢として持ち得る選択肢は広がるだろう)
次に「覚悟」を決めること。「希望」を持っていたとしても、宇宙飛行を目指すためには多くの困難が想定される。まずは数多くの志望者の中で勝ち抜くための努力、勝ち抜いた後も継続的な厳しいトレーニング、ロケット打ち上げが失敗するかもしれない精神的なプレッシャー、閉鎖された宇宙空間での生活等、想像しただけでも多くの困難が想定される。それらの困難を乗り越えようと思う「覚悟」が必要になる。
「覚悟」が決まったら行動にうつすことだ。行動が伴わなければ、絶対に「夢」は実現しない。宇宙飛行士でいえば、JAXAでは自然科学系の大学卒以上が募集要件となっていた。まずは大学に入るという行動が必要だ。次は、募集試験に応募するということ。「覚悟」を持った何かしらの「行動」が求められる。
これらの要因は、めざす「夢」に応じて必要な程度は異なってくるが、夢を実現していくためには多かれ少なかれ必要な要素ではないだろうか。
希望を持ち夢を実現する
私には夢がある。その実現のために「希望」と「覚悟」と「勇気を持った行動」を通じて実現していこうと思う。多くの人が夢を持ち実現していくことができる社会をつくっていきたいと思う。
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