【詩】『私が作りました:心臓』

芸術に触れなさい
日常は芸術ですか

いえ だから触れられないのです
ただ歩き喋る人間が 作品ですか
特別だという認識すら  外れた
身近な足音は よく響きますかね

ふと時計を見やり
立ち上がる重い腰ルーティン
予測のつく食事の味
どこかで感じた朝日夕日風
律儀にやってくる小鳥
ゆきかうくるま
さどうするもーたーおん
にくたいのもつ ねつ
そこしれぬ うみ

明日また 今日がくる
一年経つといちねん過ぎる

春をのぞむ
特別をのぞむ
都合のいい時間の移り変わりだけが
きぼう

では芸術はどこにある

あの隙間?
空のさき?
車で何時間も走った建物の中?
わざわざ見せられる額縁の内側?

それで?

私はよく響く足音のコンクリート通路を歩きながら『今日は来てよかったね』とこぼすの?

はやおきして
とおくにゆき
じんこうの園

カレンダーに染みを作り
振り返り感慨のカケラを嗅ぎ

『よかったね』
『よかった』
『ね』
『よかった』

やっぱり時には 芸術に触れないと
心が 心の ……ナニ?
私は少女 ポリアンナ?

冬に吊られたカラス
月光に揺れて
死骸をさらす 夜明けまで
かぜ ゆき  死体ごっこ

自販機の お釣りの蓋プラスチック
工場で つくられ 冬の夜中に
パカ パカ ってひびくの

くるまがとおって

『そういえば、私は死体だった』

と 慌てて のいて そしらぬ顔で
歩道 ―― ―― ――
ですから もう帰ろう?

行かなきゃ
ながいながい
芸術が不在の
あの退屈な
よく知る壁の中で
揺れる死骸
黒いカラス

海には霧がかかり
野焼きの匂いが飛ぶ
次第に朝

『私は死体だった』

そうだった 羽 血を剥がして

飛ぼうか 少しだけ

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