第6回:国の予算のプロセスとスケジュールを理解する

1.予算とは何か


今回は予算についてお話しますが、その前に、少し第一回目の記事の内容をおさらいしてみましょう。

第一回目の記事「そもそも「政策」とは何か」で、

政策とは、政府独自のリソースを活用して、人々の行動変容を促し、社会課題を解決する仕組み

と説明しました。

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第一回目の記事では政策の中には、いくつか種類があることもお伝えしましたね。予算も、その中の一つに含まれています。

コロナ禍の政策でも様々な「予算」が作られました。

例えば、都道府県の時短要請や休業要請に従った飲食店等に対して、一日あたり数万円の支援がされていますが、これも「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」という国の予算がもとになっています。

これは、人々が間近で会話することにより、感染のリスクが高まるようなお店の休業や時短により、新型コロナウイルスの感染拡大を防止することを目的としています。

もし、このような休業や時短の要請を受ける飲食店等に対する経済的な支援がなければ、飲食店などの経営者は、倒産してしまうかもしれませんし、逆に、自分や従業員の生活を守るために、要請に従わずに営業を続けることを決断する可能性が高くなるでしょう。

もちろん通常営業をする場合と比べると十分な支援ではないかもしれませんが、このような支援があることによって、飲食店などの経営者が休業や時短の要請に従いやすくなることは間違いないでしょう。

このように、予算とは

金銭という動機付け(インセンティブ)を与えることにより、人々の行動を変化させるツール

と考えることができます。

(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)


2.国の予算づくりは表向きは7月からスタート

なぜ今回、予算をとりあげたか。

実は、7月は国全体の予算の中身を決めるプロセスのスタートラインだからです。

例年7月には、財務省が概算要求基準を公表します。

概算要求基準とは、国全体の予算の使い方について取りまとめる立場にある財務省が、予算の具体的な使い方を考える立場の各省庁に対して、次の年度の予算として財務省に提案してもよい大まかな基準を示すものです。

3.予算は政策実現の強力な後押しになる

先ほども触れましたが、予算は人の行動に強い影響を与えたり、直接企業経営や人の生活を支えたりすることができるとても大事な政策手段です。皆さんが社会をよくするために進めたい政策を大きく前に進めることができます。

たとえば、このようなことが考えられます。

あなたが、こども食堂のように地域ぐるみでこどもを見守るような仕組みをいろんな人たちが実施する必要があると考えたとしましょう。そして、そのことが政府にも理解されたとします。

その場合、政府は、人件費などこども食堂を始めるために必要な費用の一部を補助するようなことがありえます。そうするとどうでしょう。事業実施の負担が軽くなるため、その取組を始めようとする人が増えるはずです。

また、県や市がその民間の取組の支援実施に責任を負っている分野(※)ならば、国としては「特別に国が半額出します」という予算を付けることもできます。

県や市のうち、新しい取組を始める予算を潤沢に持っているところは多くありません。国がお金を出してくれることは、県や市が新しい取組を始める上で、大きな後押しになります。

実はこども食堂などの事業については、その事業を市町村が行いたい、と考えた場合に、国が人件費等の(本来市町村が負担すべき)経費を補助する仕組みが、実際に令和2年の補正予算で作られています。

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(※)国と地方の役割分担は、それぞれの分野の法律に書いてあり、例え ば、厚生労働省の分野で言えば医療や福祉は県や市に実施責任があります。失業対策や労働基準などは国が直接実施しています。
―――――――――――――(※の説明終わり)―――――――― 

このように、人々や自治体の行動に動機付けを与えるという意味で、予算には強い力があります。皆さんが社会のために必要と考える政策があるならば、予算の実現を是非目指してください。

ただし、新しい予算を実現するには、いくつものハードルを越えていく必要があります。

予算を作るという仕事は、広く国民の人から集めた税金の使い方を決める話なので、補助金などの仕組みを設計する各省庁の一存では決められないのです。様々な角度から検証されますし、多くの人の理解を得て決める必要もあります。

だから、予算を作るプロセスは、関係者が多くとても長いのです。
予算は、毎年必ず作るものですから、このプロセスやスケジュールはあらかじめ決められています。民間から何らかの予算の実現を目指したいのであれば、予算のプロセスとスケジュールを理解しておいてほしいのです。

そうでないと、せっかくよい内容の提案で、政治家や官僚が「実現したらよさそう」と思ってくれたとしても、時すでに遅しということになってしまいます。

具体的には、
・国が予算を作るタイミング
・政府内での予算決定プロセス
・予算決定のキーパーソン
を理解しておくことが重要
です。

予算が出来上がるまでの表と裏のプロセスを理解し、皆さんの活動の参考にしていただければ嬉しいです。

4.当初予算と補正予算

予算には大きく分けて2種類あります。
一つは当初予算、もう一つは補正予算です。

当初予算とは、ある年の4月から次の年3月までの1年間(これを会計年度といいます)で使われる予算の全体パッケージを指します。

補正予算とは、会計年度途中に、緊急に必要となった場合などに追加の支出をするための予算をいいます。

2020年は過去に例を見ない新型コロナウイルス感染症の蔓延により、年度途中で様々な政策を新しく始めなければなりませんでした。そのため、3回も補正予算が作られています。

今回は基本的には当初予算に絞って説明をしていきます。以下、特に言及がない場合、予算と言ったら当初予算のことだと思って読み進めてください。

ちなみに、補正予算は臨時で急いで作るというスケジュールが違いますが、基本的なプロセスは当初予算と同じなので、当初予算のプロセスをしっかり理解していただきたいと思います。

また、その年に補正予算が組まれるかどうかは、報道などを見ていると、だいたい予想はできます。例えば、今年は秋に衆議院選挙が予定されていますが、おそらく選挙後に開かれる秋の臨時国会で、与党が選挙公約で掲げた内容を実現するための補正予算が作られるのではないかと言われています。

5.実際の予算づくりは7月よりもっと前から(年間スケジュール)

予算をつくるスケジュールは以下のようになっています。

4・5月 各省庁が次年(2021年の4・5月であれば2022年)の予算の使い方を考え始める
6月中旬 経済財政諮問会議で「骨太の方針」が閣議決定
7月 財務省が、各省庁が次年の予算を提案する際に、どれくらいの額に収めればよいかを示す「概算要求基準」を作成
8月末 各省庁が次年の予算の使い道を提案する「予算概算要求」を財務省に提出
9月~12月 財務省が各省の要求をヒアリングして、予算として盛り込むべきか査定
12月上旬 経済財政諮問会議で議論する「予算編成の基本方針」を閣議決定
12月下旬 政府予算案の確定
1月 予算案の国会提出
2月~3月 国会での審議
3月末 予算成立

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