第47回：政策のプロなら必ず理解している政策の特徴とは‐政策提案の成功の秘訣‐

１）プロが無意識に実践している政策との向き合い方とは

最近は少しずつ、民間サイドからの発案で政策が変わることが増えてきました。これまで政策づくりのプロセスに関わってこなかった人が政策を動かす事例も増えてきています。どんな人でも政策を変えうる状況が生まれてきています。

政策を変えるには、正しくその特徴を理解することが必要です。一度だけなら勢いや偶然で政策変更に成功するかもしれませんが、継続して政策をアップデートする側に回るために押さえておくべき事項がいくつかあります。

様々な民間団体のコンサルティングをする中で、継続して政策変更に成功している人が必ず理解している事項があることが分かってきました。そのような「プロ」が、どのように政策を理解しているかを、まとめました。

２）政策のツールを正しく理解している‐家庭内の事例‐

まず、あるべき社会を実現するために何をどうすればいいかを政策のプロは理解しています。政策とは、政府が持ついくつかのツールを使って、人の行動変容を促し、社会課題を解決するものです。法律、予算、税制、執行、情報提供、表彰などといった手段はそのツールの一部で、それぞれ役割や効果が違ってきます（下の図を参照してください）。

政策ツールを理解する、といわれると難しいように聞こえますが、そんなことはありません。究極的に言えばクラスや家庭内のルールが発展したものが政策です。困りごとを解決して、状況を安定させる、もしくはよい方向へ導くのが、政策なので、基本的には身近な課題解決にも政策をつくる時の手法は応用できます。身近なルールにも政策でよく使われる手法が用いられていることが分かる事例を紹介します。

パートナーと生活を共にしている場合を想像してみましょう。家事分担の不公平感から喧嘩をする、なんてことはよく聞く話です。喧嘩の原因を放置することは、二人にとって望ましくありません。

二人の間の課題を解決するには様々な方法が思いつきます。

「家事の分担の内容を明確に紙に書きだすこと」はその一つです。どちらかが気が付いたらやる、のではなく、掃除、洗濯、買い物などのタスクごとに役割を割り当てれば、私ばかり家事をしている、という不満は減少するでしょう。「ルールができたらわかりやすく図にして壁に貼っておく」のも素敵かもしれません。

もし家事分担のルールを守らなければ「1回あたり500円の罰金を取る」なんてことも効果があるかもしれません。「しっかり家事をしてくれたら感謝の気持ちを伝える」ことで、引き続き気持ち家事をしてくれることになりそうです。

「お互いのスケジュールを共有」しておくことで、相手への配慮も生まれるかもしれません。
今日は納期前で忙しいなら、私が代わりに家事をしておこう、そんな風に相手に対する配慮もできるようになります。

「お金を払ってハウスキーパーを雇う」、というのも一つの手でしょう。そのための「お金は二人の収入に応じて集める」ことにすれば、二人とも少し懐は痛みますが、お休みの日にどっさりとたまった食器や衣類を前にため息をつかなくて済むようになります。

皆さんも似たような試みを家庭内でしているかもしれませんね。どれか一つの方法だけではなくて、挙げたようないくつかの解決案を組み合わせたりして、効果をあげている方もいるかもしれません。

３）政策のツールを正しく理解している‐家庭内の課題解決と政策ツールの一致‐

この家庭内のケースでいうと、「家事の分担の内容を明確に紙に書きだすこと」は法律に当たりますし、「お金を払ってハウスキーパーを雇う」は予算ですね。ハウスキーパーを雇う「お金は二人の収入に応じて集める」のは税制に似ていますし、ルール違反は「1回あたり500円の罰金を取る」のは決まりを守ってもらうための執行です。「しっかり家事をしてくれたら感謝の気持ちを伝える」ことは、良いことをしている団体をたたえる表彰と一緒ですし、「お互いのスケジュールを共有」することは、人が合理的な判断をするために必要な情報提供と一緒ですね。

家庭内でなく、学校や会社など、身近なコミュニティ内でも一緒ですが、何も決めごとがない状態で、お互いがお互いに配慮しあって、みんながハッピーに暮らしているという状況はかなり珍しいのではないでしょうか。

どんなコミュニティであっても、みんなが安定した生活を送るために色々な工夫をしているハズです。その工夫はとても政策と似ています。

身近な決まりごとに政策を当てはめてみると、政策ってそんなに難しいことじゃないんだな、という風に感じませんか。政策のプロはこのような政策ツールの違いを正しく理解して、効果的な政策提案戦略を考えています。

（執筆：西川貴清　監修：千正康裕）
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