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気になるコトバ #1|阿部謹也

 大学,大学院時代を通じていくつかものを書く機会があったが,私自身は学会の情勢や流行の学説などとは関係なく,私自身の問題を追い求めていた。それはR・M・リルケの『若き詩人への手紙』の冒頭にあるリルケの言葉が私の胸に刺さっていたからである。リルケは若い無名の詩人に,「出版社に詩の原稿を送ったりしてはいけない。あなたは外へ目を向けていらっしゃる。だが何よりも今,あなたのなさってはいけないことがそれなのです。誰もあなたに助言したり,手助けしたりすることはできません。誰も。ただ一つの手段があるきりです。自らの内におはいりなさい。あなたが書かずにいられない根拠を深く探ってください。それがあなたの心のもっとも深いところに根を張っているかどうかを調べてごらんなさい。もしもあなたが書くことを止められたら,死ななければならないかどうか,自分自身に告白してください。何よりもまず,あなたの夜の静かな時刻に,自分自身に尋ねてごらんなさい。私は書かねばならないかと。深い答えを求めて自己の内へ内へと掘り下げてごらんなさい。そしてもしこの答えが肯定的であるならば,もしあなたが力強い単純な一語『私は書かなければならない』をもって,あの真剣な問いに答えることができるならば,そのときはあなたの生涯をこの必然にしたがって打ち立ててください」(高安国世訳)と教えていた。

(阿部 1993: 7-8)

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