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「弟の死」

家に帰ってからの弟は、
ますます調子が悪くなり、
部屋に引きこもり、
ほとんど話をしなくなっていった。

肌寒い小雨の振る秋の夕方、
夕食時に急に弟が暴れ出した。

いつになくひどい暴れようで、
テーブルにイスを投げつけ、
外に出て隣の家にものを投げつけた。

父とようやく押さえつけ、家に連れ戻すと、
2階の自分の部屋に駆け上がっていった。

部屋ではラジカセが壊れるくらいの爆音で
音楽をかけていた。

かなり興奮しているので、
しばらくそっとして置いた方がいいだろうと思い、
部屋にはいかず1階の食堂で、
家族で様子を伺っていた。

しばらくしてそろそろ興奮もおさまった頃と思い、
父が部屋に様子を見に行ったらだれもいない。

しまったと思い、
身体中を嫌な予感が駆けめぐった。

すぐに家族で手分けして
近所を探し回ったがどこにもいない。

最後に家から少し離れた
動物を飼っている小屋に行ってみた。

真夜中なので
懐中電灯で辺りを照らしながらいくと、
小屋の戸が開いたままだった。

そこを懐中電灯で照らすと
何かがぶら下がっていた。

はっとして、駆け寄り、
夢中で抱き上げ、床に下ろして、
頬をたたいて名前を呼んだが、
何の反応もない。

急いで心臓マッサージや人工呼吸をしたが無駄だった。

父が「もうだめだよ、冷たくなっている」といい、
その時始めて、
弟が死んだのかもしれないということを悟った。

それでも、まだ助かるような気がして、
急いで背中に負ぶって家に向かった。

背中に負ぶった弟が途中でぐにゃりと倒れ、
頭が地面に着き、後ろに転びそうになった。

死んだら、
背中に負ぶわれることさえ出来ないんだと思ったら、
急に悔し涙が出てきた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

病院に着くとすぐに死亡が確認され、
身体が清められた。

その後は警察の現場検証や、
通夜の準備であっという間に朝になった。

首に包帯が巻かれている以外は、
昨日と何も変わらない弟がそこにいた。

目をつむっている顔は
むしろこの頃の普段の顔を思えば、
穏やかな顔だった。 

まるで、ほっとしているような、
そんな顔にさえ見えた。

そんな顔を眺めていると、
急に死というものが
実感として迫ってきて、
涙があふれ出てきた。

なんでそんなに死に急いだ、
せめて生きてさえいてくれれば、
なにか方法はあったのではないか。

もうこいつと話したり、
喧嘩したり、
酒を飲むこともできない。

いろんなことが頭の中を駆けめぐった。

火葬の日、弟を入れた柩が、
分厚い鉄の扉の中に入れられた。

母の悲鳴のような鳴き声が辺りに響いた。

扉が閉められ、
しばらくすると、煙突から煙が出始め、
弟が煙になって、
秋晴れの空高く昇っていった。

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