無数の手で人々救う千手観音のような 平泉寺白山神社若宮神社の大杉
福井県勝山市の平泉寺白山神社は、苔むす森。昔は48社36堂6,000坊院が建ち並んでいたが、今から五百年前の戦国時代に戦火にまみえ、すべてが焼失してしまったといわれる。後に一部は再興されたが、現在、多くの伽藍の跡は土中に眠り、旧境内は苔むし、杉並木の深い緑に覆われ、独特の霊気を漂わせている。
平泉寺滅亡を乗り越え、残った7本の杉のうちの1本が、白山神社本殿から南に遊歩道を進んだ南谷坊院跡地近くに聳える若宮神社の大杉 だ。
御神木には樹相がある。そこには神々の顔、姿が浮かび上がって見える。ウラスギともアシウスギ(芦生杉)とも呼ばれ、林の中で孤高に毅然と佇むこの御神木は、天に向かって立ち昇る幹から四方八方に伸びる枝が、千手観音のようだ。千手観音の千本の手は、どのような衆生をも漏らさず救済する観音の慈悲と力の広大さを表しているといわれるが、苦境を乗り越えてきた若宮神社のこの御神木も、四方八方に勢い良く伸びる枝葉が、まさしく千手観音の人々を救う千(無数)の手のごとく、きっとわたしたちに救いの手を差しのべてくれるような気がする。
御神木の傍らに設けられた社殿も、そんな人々の願いを受け入れ、神々に届ける拝礼所なのだろう。