おい、福田!② 〜成りすまし家庭教師〜
高校の同級生である福田の話を書いている。それは21世紀を目前に控えた1998年、2人は卒業して、たまたま東京の近くに暮らしていた。
新聞勧誘の仕事を始めた福田だが、夜に別の仕事を掛け持ちする事になる。それは福田の彼女がやっている、家庭教師のバイトを手伝っていると言うのだ。
福田が家庭教師をやって、生徒に教えていると聞いて我が耳を疑った。僕は、
「オマエが勉強教えとんのか?」
と福田に問い質した。彼は、
「うん、中学生のな!」
と普通に答えやがった。ちょっ、ちょっと待て!とツッコミ所が多くあり過ぎて、言葉を失いそうである。高校の彼の成績では小学生でも教えるのは難しいはずだ。
「どうやって教えてんの?」
と聞けば、問題集をその中学生と一緒に、悩みながら解いているという。そして解らない所は、解説を見て答えを導き出しているらしい。
最近では福田の教える中学生の方が、解答を導き出すのが速いので、彼は横でひたすら漫画を読んでいるのであった。
そんな彼に奇跡が起きた。教えていた生徒の成績が上がり、彼は時給を上げてもらえたと言う。福田は高卒の新聞勧誘員だが、
「バカだ大学の学生です」
と嘘をついて家庭教師に成りすまし、教えていた。ある親御さんはこの「バカだ大学」を、早稲田大学と勘違いしていたと言うから、世の中には変わった人がいるものだと感心する。
ある日、福田は調子に乗って新たに高校生を教えに行くことにした。その高校生は陰鬱な性格で、家庭教師の彼をゴキブリの様に受け付けなかった。(真っ当な高校生の反応であろう)
そして何度か福田はその高校生の家に行き、ゴキブリ扱いされながらも彼女の横で問題集を解くのを見ていた。そうこうしていると彼に鬱が移ってしまったらしい。
急に家庭教師を辞め、彼女の家も出て、新聞勧誘の仕事までも、辞めてしまい福田との連絡が途絶えた。
この数年後に福田と再開するのだが、曰く
「当時は冷静な判断が出来なくて、とにかく逃げるのに必死だった」
という。次回、この福田との再会の話を書こうと思う。
続