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転職アスリート ⑤ 〜 ラフティングガイド 上巻 〜
25才になろうとしていた。当初はプロのトライアスリートになるとオーストラリアまで行き、夢破れ。諦めて、帰ってきた徳島で、
「今度は大工になろう」
としたが、現実は厳しかった。
暫くして、ハローワークに通い始めた。無数にある求人だが、自分のやりたい仕事はなかなか見つけられなかった。
そもそも次の仕事をやれるような精神状態ではなかったように思う。
何もしない日々が続いて、夕日が沈む瞬間を自分の部屋で何度も眺めていた。
高校を卒業して川崎という都会でお金を貯め、オーストラリアに渡った。そしてまた徳島の田舎に戻ってきた。ほとんどの者は、
「徳島市は田舎だ」
というが、徳島の郡部の方に住んでいる人間に言わせれば、「それでも都会だ」という。当時は、この中途半端が嫌であった。
梅雨が明け、夏が始まろうとしている頃に
「ラフティングツアー」
という求人が気になり、面接を申し込んだ。
大歩危峡という断崖絶壁の渓谷に、その会社はあった。吉野川の激流が何万年とかけてつくりあげた場所だという。
そこは家から車で2時間程かかったが、引きこもりがちだった僕にパワーをくれた。面接では、
「ゴムボートにお客さんを乗せて川をくだる仕事」
という。春から秋にかけて営業しており、これから夏に向けてが一番忙しくなる。
若くて筋肉ムキムキの社長が説明してくれた。
働きたいが、家から通うのはちょっと遠すぎることを伝えると、その社長は
「ボロい空き家ならあるよ」
と近くに住む家を紹介してくれた。
ここの社長をはじめ、そこには若い男女5人が働いており、ラフティングを楽しんで仕事にしている。
給料は安かったが、山奥で生活するには、何とかなった。
過疎化が進む限界集落に若者や外国人が集まって住むようになっていた。そこでは酒やツマミを持ち寄って互いの家で、たびたびホームパーティをして盛り上がったりしていた。
ある夜、河原でバーベキューをして酔った勢いで、激流へ飛び込み、フリチンの状態で溺れかけたこともある。
続
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