サウザンクロスの真下で ⑨ 〜 キャンベルタウン 〜 ホバート 〜
「タスマニアデビルはいなかった、、」
結論づけるには余りにも早計で、今までの時間と労力は何だったのかと、思わせる程あっさり見切りを付けた。はるばる自転車でタスマニアまでやって来たのに、
「動物園へ行けば会えるさ」
と簡単にあしらわれた。ここから先は、言い訳になるが、まず、寒すぎて心が折れていた。
しかし、ここタスマニアのカフェで食べるフィッシュ&チップスは、言葉にならないほど旨すぎた。
「もうこの辺でいいかな」
と自分自身に言い聞かせるように、帰る口実を探していた。2、3日ホバートに滞在して、雄一くんと会った。
彼は極感の海に飛び込み、ひたすら泳ぎ、陸に上がれば自転車でかっ飛ばして、レベルの違いを見せつけてくれた。
トライアスロンのワールドカップにあたるレースで、また入賞したのだ。
この時期ホバートは、日が短くなって、夜になるのが早かった。
満天の星空の下で、ひときわ南十字星が輝いていた。タスマニアでは、夜空の素晴らしさを満喫して、最高のフィッシュ&チップスが味わえた。
絢爛たる星々が、夜空いっぱいに広がる、壮大な眺めを目にしながら、ビールが美味かった。空気がキレイで、原始の森が残るタスマニアは、水も清らかで先住民のアボリジニが羨ましく思えた。
ホームシックなのか、日本に帰りたいと強く思うようになった。
「遠いところまで来てしまったな」
と独り言を口にして、感傷に浸っていた。今から思えば、前夜アルコールの呑みすぎで、ただの酒鬱なのだが、当時の自分は、先住民アボリジニからのお告げで帰りなさいと、言われている風に勘違いしていた。
これから来た道を、戻るのだが、真上まで昇った南十字星を背に向けて走るのが辛かった。
「行きはよいよい、帰りはこわい」
オーストラリア大陸が、四国ぐらいの大きさなら、直ぐにでも帰れるのにと、一人ぼやきながら、また自転車を走らせるのであった。
完