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工業哀歌 ギザギザハートの陸上部⑥

高校時代の夏合宿について書こうと思う。徳島の夏休みは蒸し暑く、走りこみをするには少し過酷すぎる。

そこで長野県の車山高原に2週間、鳥取県の大山に1週間、夏合宿をするのが恒例であった。

真面目な話をまず書こう。この走りこみ合宿は、早朝6時、午前10時、午後4時の3回練習が行われる。また全て自己申告で

「何キロお願いします」

と監督に自分が走る距離を伝えて陸上部のマイクロバスに乗り込む。バスは20キロ地点から部員を降ろし始め、次は15キロ、10キロの距離で部員を降ろす。そこから走って旅館に帰る練習方法であった。

5キロ毎に給水があり、バスが見えれば、お茶やスポーツドリンクでのどを潤した。

この合宿は、ノルマ制で毎日、合計50キロを走りこむ。これら数字だけ見ると過酷な感じがするが、実際は早朝と午前に20キロずつ走っておけば、夕方はゆっくり10キロでいい。

朝が苦手だったり、夕方涼しい時間に距離を稼ぐ者もいる。

不思議に思われるかも知れないが、人間はどんな状況にも慣れてくる。1年の時は余裕がなかったが、2年3年と自分はこの練習が合っていた。

1キロ4分を刻んで走る。ただひたすら機械の様にマイペースで走ろうと思っていても、後から先輩や同期に並ばれると競走になっていく。

また、白樺湖や女神湖の周回コース、霧ケ峰のクロスカントリーを使って走りこみを続けた。合宿の最終日は陸上部の父兄が懇親会を兼ねて泊まりにくる。

ある時、たぶん大山合宿の最終日だったと思う。先輩から声がかかった。

「拓、今日は大阪の女子大生がきとったで」

夕食を食べおわり、部屋でくつろいでいたが、先輩にけしかけられて女風呂を覗きにきた。毎日50キロ走っていても、まだまだ元気だ。

「なんかガラスが曇って、よく見えないっすね」

と旅館の垣根に隠れながら先輩と女風呂に近づいていく。ガラス張りの大浴場は旅館の庭が綺麗に見えるようになっていた。

これ以上近づくと、ヤバいと思った瞬間、知った顔と目があった。

「先輩のオカンっすね、、、」

「、、、オカンの裸を見てもうた」

女子大生が入っていると勇んでやってきた先輩は自分のオカンの裸を見て心が萎えてしまう。

車山合宿でも、先輩は女風呂を覗いて怒られた。そこは箱根の山梨学院と合同合宿をやっており、大学生が高校生を扇動したとして、一緒に女風呂を覗いた学生は坊主にされた。

今でも山梨学院の1年生が丸坊主なのは、これが発端である。

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