新ギザギザハートの陸上部 ⑨ 〜 エピローグ 〜
母校の陸上部員にとって、部活動は高校生活の全てであり、すなわち駅伝が僕らにとっては全てであった。
前に書いたが、1年の時は、補欠にも入れなかったが、全国駅伝5位入賞という過去最高位を更新した。
その翌年は14位であった。この14位のヒーローである日裏先輩について書きたい。
走りのセンスが抜群の先輩であった。3年で始めた3000メートル障害で、インターハイ入賞という快挙を成し遂げる。
しかし、精神面での弱さがあり、プレッシャーに滅法弱かった。前回の全国駅伝は競技場で最後のトラック勝負になり、2人抜いて5位入賞であった。
この重圧を人並み以上に先輩は感じていた。
俄然注目の集まる全国駅伝大会で、今回は12位で襷がアンカーの日裏さんに託される。
先輩は必死の形相で、師走の都大路をひた走り、西京極陸上競技場まで帰ってきた。
順位は12位のままであるが、後続に2人ランナーが迫っていた。
「ド、ドン、ド、ドーン」
大太鼓と歓声が鳴り響く会場に、テレビの実況放送が臨場感を掻き立てる。
ラスト300メートル、バックストレートにさしかかった所で1人抜かれて13位。
ラスト100メートル。大観衆が湧き上がるメインストレートで先輩の顔が歪んだ。
そして足がもつれた。テレビの実況は、
「徳島東の日裏、足がつった、大丈夫か」
と叫んでいる。会場がどよめいていた。
約50メートル、四つん這いになってゴールした。
「執念のゴーーール!!」
と実況アナウンサーが絶叫したのが、瞬間最高視聴率MAXであっただろう。競技場で観ていた僕は、割れんばかりの歓声と拍手に感激で心が震えた。
京都の旅館に帰って次の日の朝、コンビニでスポーツ新聞を手に取った。
裏の一面にデカデカと「執念のゴール!」の見出しで日裏先輩が載っていた。
スポニチなんかはカラーで大きく取り上げている。
それを買って旅館に戻ると、キャプテンは昨日の録画をロビーにある大きなテレビで何度も繰り返し観ていた。
そう、日裏さんのゴール場面である。
僕はあまりチョけるのは、先輩に申し訳ないと思いつつ、キャプテンの悪ふざけに付き合っていた。
すると後輩が日裏さんの驚くべき行動を報告してきた。
「コンビニでスポーツ新聞を全部買い占めて、ゴミ箱に捨ててました」
と旅館の周りに4店舗あるコンビニのスポーツ新聞を全て買い占めたらしい。
スポーツ新聞に載っている姿を仲間に見られたくなかったのか、謎の行動をしている日裏さんに
「冗談抜きでカッコよかったっス」
と僕は握手を求めた。昨日のショックを引きずった先輩は、凍える手をして震えていた。僕はその手を強く握り返し、
「マジでカッコよかったっす」
と我らのヒーローを讃えた。
完
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