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楽なようにやりたいように後悔しないように

 当院では、お看取りの時期が近い患者さんへ必ずお話しすることがあります。それは「楽なように、やりたいように、後悔しないように」 という信条です。


 一つ目は、「楽なように」です。今は緩和医療が発達して、心や身体のつらさをしっかり取ることができるようになりました。これから在宅療養を始める患者さんに「家に帰って何かしたいことはありますか?」と聞くと、たいていの患者さんは「こんなに痛くてしんどいのにそんなこと考えられないよ。」と言われます。そんな時、病気や老化を治すことはできなくても、痛みやしんどさは緩和医療を用いて、楽にすることをお約束します。今では、心身の苦痛を取る緩和ケアは、病院・在宅にかかわらず同等に行うことができます。私達は、患者さんが痛みやしんどさを我慢することがないようにお話しして、とことん「楽になる」ことを追求するのです。
 

 二つ目は、「やりたいように」です。苦痛から解放された患者さんに、もう一度、やりたいことはないかと聞くと、多くの方が「先生、病気が治ったら考えるよ。」と言われます。しかし、患者さんと共に、治らない病であること、限られた命であることに向き合い、緩和ケアを提供すれば、自ずとやりたいことは出てきます。最期にやっておきたい事、行きたい所、家族との思い出づくり、仕事の整理等、それは個々で異なります。その時、機を逸せず患者さんの「やりたいことを叶えられる」よう、多職種のチームが一丸となって支援するのです。


 三つ目は「後悔しないように」です。患者さんがやりたかったことを叶えられれば、本人はもちろん、ご家族も達成感と納得感に満たされます。このことは、遺されたご家族の苦痛を和らげ、これからの人生を生きる糧にも成り得るのです。大切な人を亡くして後悔がないなんてことはない、と言われる方もおられるでしょう。しかし、本人の想いを最優先し、考えられる限りの選択肢を提案し、一緒に悩み、時には涙し、寄り添いながら出した結果は、きっと本人やご家族に「これで悔いはない」と納得していただけるのではないかと確信しています。大切なのは、最終的な「結果」(アウトカム)ではなく、迷いながら歩んだ「過程」(プロセス)だと思うのです。
 

 「楽なように、やりたいように、後悔しないように」全力で支援することは、患者さん・ご家族が納得できる最期を迎えるために大切な事だと考えています。

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