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経験はつながっていく

 アップル社の創業者スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式で、「コネクティング・ザ・ドッツ」(経験はつながっていく)という伝説のスピーチをしています。私はこの言葉を常に心に留めています。


 医学部1回生の時、私は愛媛県南予の無医地区で研修に参加しました。現地に1週間泊り込み、検診や労働体験、救急医療のアンケート等を行なったのです。そこで分かったのは、無医地区ではやはり医療者を切望しているということでした。その経験がきっかけで、医学部を卒業する時、当時は専門医全盛の時代の中、自分は他の人が行かない場所に行き、より自分を必要としてくれる場所で働きたいと「へき地医療」を志したのです。


 自治医科大学での研修後、念願叶い29歳で、南予地方の当時明浜町俵津地区にある国保俵津診療所へ所長として赴任しました。住民1,800人の地域に1つしかない診療所で、子どもからお年寄りまで地域をまるごと診る医療を実践しました。そして、通院できない方のために在宅医療をはじめました。その時の体験から在宅医療に魅せられ、生まれ故郷の松山市で県内初となる在宅医療専門クリニックを開業しました。


 それから12年ほど経ち、以前勤務していた国保俵津診療所は毎年大きな赤字を抱え、閉鎖されることになりました。「地域で唯一の診療所がなくなる。なんとかしてほしい。」と住民から祈るような思いを受け、たんぽぽ俵津診療所として私たちの法人で運営することを決めました。まずは住み慣れた場所で最後まで過ごせる地域を目指して、24時間対応の在宅医療を積極的に行うようにしました。さらに、松山市の法人から複数の医師が曜日毎に交代で現地に滞在して診療を行う「循環型地域医療」の実現に取り組みました。現在も松山市の本院と俵津診療所をウェブで結び、共通のツールを使って多職種でミーティングを行い、患者さんの最新情報を共有できるようになりました。これらの取組みが実を結び、その後、経営も黒字化しました。平成28年にはこの取組みが認められ、「第一回日本サービス大賞地方創生大臣賞」を受賞しました。


 医学部で経験した無医地区での医療、医師として若い時に経験したへき地医療、そして、在宅医療。それぞれの経験が、螺旋のように進化しながらつながっていったのを感じます。若い時の経験に決して無駄なことなどありません。その時に一生懸命関わった経験は必ず将来へとつながり、役立つのです。「経験はつながっていく」この言葉を私の人生の中でも改めて実感し、大切な信念としているのです。


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