第2回「へき地医療の経験が原点」
1992年に愛媛大学を卒業し、自治医科大学地域医療学教室での研修後、シニアレジデント3年目の時にはじめて赴任したのが、愛媛県の南予地方にある当時人口約1800人の明浜町俵津地区でした。リアス式海岸に面した町で、海と山が近く、斜面でのミカン栽培と真珠の養殖が主な産業。そこにある国保俵津診療所は、まさに僕が描いていたイメージ通りのへき地診療所でした。
私がこの国保俵津診療所に所長として赴任したのは、29歳の時でした。まだまだ医師としても未熟で住民の方にご迷惑をおかけしたことも多くあったことと思いますが、忙しい外来の合間に、在宅医療の枠を設け、手探りで訪問診療と訪問看護を開始しました。俵津地区は既に高齢化が進んでおり、通院困難な方はたくさんおり、すぐに在宅患者は30-40人になりました。訪問診療も訪問看護も自分たちで手探りで考えて始めました。今考えるとまだまだ未熟な在宅医療だったと思います。それでも3年くらい経つと地域の三分の一の人を自分たちの診療所で看とるまでになりました。
地域医療の醍醐味は、子供からお年寄りまでその地域をまるごとみることだと思います。赴任して3年くらい経つと、地域を歩いている人を見るとその本人の「人となり」などの情報だけでなく、その家族まで見えてくるようになりました。そして、その人の病気だけではなく、その人の性格、生き方、家族、親戚、地域や人生まで見えてくるのです。家族や人生、地域までみていくことのできる地域医療は本当に楽しく、やりがいのあるものでした。