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在宅医療専門クリニック

 介護保険制度が始まった2000年、私は在宅医療専門クリニックを開業しました。外来も病棟も持たずに在宅患者に特化した医療を行うクリニックは、当時愛媛県で初めてでした。
 なぜ、在宅医療専門のクリニックを作ったのかとよく聞かれます。私は元々、へき地診療所で高齢の患者さんを多く診ており、病気や障がいで診療所に通えない方がいると、自然に患者さん宅を訪問する在宅医療を始めるようになったのです。 
 ある時、がん末期の患者さんから「家で看取ってほしい」との依頼を受け、訪問診療を開始しました。約1年間の療養後、状態が悪化し、お看取りまであと1週間程度と思われる中、急に奥さまが突然入院させたいと言われたのです。ここまで一生懸命家で看てこられたのに、最後に介護で疲れたのだろうかと心配になり、私が理由を尋ねると、思いがけない言葉が返ってきました。「先生、私は家で看取るのは初めてです。先生が家の前を通って、町の外に出て行くのを見ると不安なんです・・・」
その患者さん宅は私の自宅のすぐそばでした。休日に私たち家族が車で町外へ買い物に出かける度に不安になっていたそうです。奥さまの気持ちを察した私は、「分かりました。必ずいつでも連絡が取れるようにしますから、最後まで家でみましょう」と答えました。奥さまは涙を流して喜んでくれました。
 その患者さんを家で看取った時、私の中で次のような思いが駆け巡りました。病院で看取るのが当たり前の時代に、家で看取ることは難しいこと。その「不安」を取り除く医療を提供しない限り、家での看取りは定着しない。在宅医療は片手間ではできない。改めてそう気づいた私は、安心して家で看取れる在宅医療を実現するため、専門性を持って在宅医療に特化しようと決めたのです。
 そして、生まれ故郷の松山市に戻り、「たんぽぽクリニック」を開業しました。職員3人で小さな事務所を借り、車を1台買って、患者ゼロからスタートしました。もちろん診療は24時間対応です。最初は訪問するだけで、「医師が家に来てくれるなんて」と喜んでもらえました。今では松山市にも在宅医療を主体にするクリニックは10カ所近くあり、在宅療養支援診療所も数多く開設されて地域住民のニーズに応えられるようになりました。
 早いもので、たんぽぽクリニックは今年の秋に開業20周年を迎えます。患者さんから教えていただいた多くの学びを生かし、初心を忘れずに、質の高い在宅医療が提供できるよう精進していきたいと思います。

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