点滴をする選択、しない選択
病院で亡くなる患者さんの多くは、最期のその時まで点滴を受け続けています。そして、ご家族も最期まで今の医学で可能なことはやってほしいとそれを望まれます。
私はこれまで多くの患者さんから、最期に点滴をしない方が楽であることを身をもって教えて頂きました。この経験から、亡くなる前の点滴についてどのようにご家族に説明することが理解を得られやすいかを考えています。それは最期はご本人を楽にすることを最優先に考えることを願うからです。それではどうすれば「看取り期に点滴をしないこと」の意味を理解していただけるのでしょうか?その理解のポイントは四つあると考えます。 一つ目は、亡くなるまで治癒しない治療を続けるのではなく、しっかりと死に向き合うこと。「食べられないから死ぬ」のではなく、「死ぬ前だから食べられなくなっている」こと。二つ目は、患者さんの身体にとって点滴は過剰な水分となり、処理できなくなっていること。三つ目は、点滴しても元気になるわけではなく、かえって本人を苦しめることとなること。四つ目は、最期まで食べる支援が可能となること。
点滴をしなければ、吸引は必ずしもしなくてよいのです。吸引しなくてもよいということは、唾液程度なら飲み込めているということ。ご本人が食べたいものを最期まで食べる可能性が広がります。食べたいものを、食べられる形態にして、食べたい時に、食べたいだけ食べて頂く。その取り組みを支援し、実際にそれが叶うことで、本人もご家族も思いがけない喜びに満たされる光景をたくさん見てきました。 多くの方がしっかりと死に向き合い、以上の四つのことを説明して納得されれば、ほとんどの方が点滴をしない自然な楽な最期を選択されます。しかし、点滴をしないことが目的ではありません。ですから、点滴を希望されるご家族には、本人のしんどい症状を軽減しながら、徐々に点滴を減量して最適な量にしていきます。本人とご家族にとって、最期に納得することができるように、どのような選択になっても、一緒に迷いながら寄り添い続けることが大切だと思います。 死に向き合い、本人がどんな最期を望んでいるのかということに周囲の皆が思いを馳せて考えることが必要です。点滴をする選択肢もあれば、しない選択肢もあります。それぞれの長所と短所を理解した上で、後悔のない選択をしてほしいと思います。そのために医療者には本人やご家族に納得のいく説明をする力量と多様な選択を認める包容力が求められると思います。