Bald reif hält nicht steif
白銀色の魚が泳いでいく
薄く靑みがかつた水の流れを
幾つもの別れと出會いを經て
それでもとても幸福さうに
金木犀が濃く匂ふ夜の闇を
ゼリイのやうに纏つて往くひとは
爆ぜない花芯に橙色の陶醉を視る
篝火の滲む輪郭
緋衣草に燈した炎のしずくが
地平線に燃えうつつたのです
あれはきつと そうです
圓舞曲を踊り終えた老夫
すこしだけ休憩をするからと
鞄を殘して消えました
鞄を開けると守宮が一匹
ひゆるりともの悲しい女の腕をすり拔けて
靈人が半透明に光る
猫たちはそれを目印にして
丘の上で搖籠に戾るのですから
衣摺れの音も 暗綠の蔦も
意味不明な文字の羅列だと
世閒は無視を決め込みますが
藥指だけで 彼女に觸れる
わたしの愛の祕匿性をその美しさを
わかるひとはきつといます
マリンブルウの碧さ 悲しさ
涼やかな九月に沈殿した
夏色の日々を 懷かしむ聲
透けた絹布に耳を被ふ
植物たちと わたしのゆびさき
花の匂ひ噎せ返る濃厚さの朝に