僕が奈良で醸造所をはじめたわけ
なぜ、奈良で醸造所をはじめようと思ったのか。
『奈良が好きだから。』これ模範解答のように聞こえますが、よく噛みしめると理由になっているようでそうじゃない気がするのです。なので、もう少しこの理由を言葉で因数分解していこうと思います。
奈良と隣接する都市圏として大阪と京都があります。醸造所の場所を探してしていたときに、いろいろな方から、様々なアドバイスをいただいてきました。曰く、集客や物流輸送コストを考えたら大阪でやったほうがよい。また曰く、京都のほうがネームブランドがあるのでそちらでやったほうが有利。インバウンドを期待するにしても、大阪・京都のほうがマーケットとしての可能性は大きい、などなど。
いずれの声も、正しさを含んだ意見だと思うんです。僕が奈良でやることを前提にして、奈良にこだわりすぎることで、ものごとを立ち上げるときに考えなきゃいけない大切なものを見落としているように映ったのかもしれません。スタートアップにあたって、勘所として押さえておかないといけない点を外してしまっているんじゃないのか、常に自分の中で反芻していました。
一方で、僕はどうしても奈良で醸造所を立ち上げたい、と考え続けていました。奈良でやること自体に理由があり、目的もそこにある。
それは、『日本で(ひいては世界で)通用するビールを造ることを通じて、(自分の出自である)奈良のような地方でもビール醸造所がちゃんと成立することを証明したい』です。平たく言えば、奈良で世界に通用する醸造所を作りたい、ということになります。
そもそも、そんなことができるのか?
今ならできる、と思っています。
公共インフラの整備、ITインフラの普及に伴ってグローバリゼーションが進展いている現代、ちゃんとしたものを造って、丁寧に伝える努力をし、知ってもらうことを重ねていくことで、醸造所周辺だけでなく、日本中、ひいては世界と向き合ってビールを出していくことはできる。広がりはきっと作れる。
ただそこに至るまでには、相当に時間も労力もかかる覚悟はしています。数年で実現できるものではないでしょう。ただ、頑張る価値はある、と思っています。
その決意表明として会社の名前を『奈良醸造』としました。
一方で、今は奈良を離れた人が、例えば東京や大阪で、たまたま手にしたビールがきっかけで『奈良醸造』を知ることになったときに、そんな思いで『奈良』にとどまって頑張っているヤツがいるんだと知ってもらえたら、僕にとって大きな励みになると思っています。そして、もしかしたらその人にとっても、ちょっと励みになったりすればいいな、とも考えています。
また、たまたま手にしたビールがきっかけで『奈良醸造』を知って、そんな思いを抱きながら頑張っている会社があるんだと思ってもらったり、そのことで奈良に興味を持ってもらえたりするかもしれない、そう思うとこれもやっぱり、励みになるんです。
結局、奈良で醸造所をはじめるというのは、とんでもなくやりがいのある仕事なんじゃないかと思っているわけです。そして、醸造をはじめて2年あまり、その考えは今のところ間違っていないように感じています。
さて、冒頭の問いかけに対して、答えになっているでしょうか。
もうひとつの『なぜ』は、『なぜ、ビールなのか?』ですが、これについてはまた別の機会に。