点と線について

さて、前回『僕が何を考えてビールを造っているのか、これからお話していきたいと思います』と、『つづく』的に締めました。が、改めて読み返すと、少し説明不足なところがあるようにも見えますね。補足すると、これからお話しようと思っているのは、いわゆる醸造のテクニカルな話よりも、『奈良醸造』を通じてこんなことがしたい、こうなりたい、という想いの部分になります。

もちろん、ヘッドブルワー(醸造責任者)として、ビールを造るにあたって考えているよしなしごとがあるのですが、それは話し出すと長くなる気がしてならないので改めて別の機会を設けたいと思います。それを踏まえて、今回は個別のビールの話ではなく、もうちょっと俯瞰的なお話をすることにします。

突然ですが、豆知識。
世界には100種類以上のビアスタイル(ビールの種類)があると言われています。みなさんが『ビール』といってまず思い浮かべる黄金色の液体は、そんな数多のビアスタイル中のほんの一握りに過ぎません。ちなみに、これまで奈良醸造でリリースしたビール、スタートから2年で50回を超えることができました。繰り返し造ってきたビアスタイルもあるので、50種類のビールを造った、というわけではありません。ただ、同じレシピで造ったビールはほんの一握りで、毎回、何かしらの新しい挑戦をビールに込めることにしています。

その根本にあるのは、多種多様なビールを世の中に提供することで、手に取る人が『ビールを選ぶたのしさを』を感じてもらいたいという想い。ビールは嗜好品であって、生活必需品ではありません。でも、それだけに、ビールと向き合う時間が楽しみとなれば、生活の一部に新しい彩りを添えることにつながる。そんな新しい価値観の提案がクラフトビールにはできると、僕はそう信じています。

そのために僕が大事にしたいのは、多種多様なビールを世の中に『提供したい』のであって、多種多様なビールを『造りたい』ではない、というところ。『造る』が点としたら、『提供する』は、『造り』も含めたいくつかの点が繋がった線のイメージです。

多種多様なビールを『造り』、それを知ってもらう工夫を『広報』という形で知恵を絞り、手にとってもらえる機会を増やせるように『営業』という名のもとで頑張る。そして実際に、届けられるように『販売』の体制を整える。これらの歯車がすべて噛み合って、はじめて『提供したい』が実現するのだと思っています。

僕はスーパーマンではないので、全部を一人でできるとは最初から思っていません。仮に寝ずにこなしたとしても、得意・不得意で言うと、そのムラは絶対にある。目の前の仕事を処理することが目的ではなくて、その先にある『ビールを選ぶ楽しさ』を提供すること。もし、ひとつの想いのもとに、様々なひとが自分の得意を出し合えたら、ビールを通じてそれはきっと実現できる。

これが前に言っていた、僕が奈良醸造を会社として立ち上げた理由につながるわけです。

と、ここまで書いて、ようやく気が付きました。自分の話をするときにいちばん自然に出てくる一人称は『僕』となるみたいです、僕。

まだ、肩の力が入っている気がしていますが、今日はここまで。

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