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マロン内藤のルーザー伝説(その14 厳寒の試練を乗り越える)

納車以来様々な機械系・電気系トラブルに見舞われ続けたター坊とマロンにとって、もう一つどうしても解決せねばならない第三の系統に属する重大な問題があった。それはター坊の体臭、つまり車内の異臭問題である。

油が揮発した、あるいは皮がカビた、そんな単純な臭いではない。これまでの人生で嗅いだことのない異臭がするのである。なんらかの揮発性有機化合物が車体のどこかに隠れされているのだろうか?窓を閉めて運転していると目がチカチカ、頭も痛くなって運転どころではなくなるため、真冬でも窓を開けないとドライブできない。ター坊を真夏に購入したマロンにとっては冬になって発覚した全く想定外の展開であり、美しい日本の四季があぶり出した問題といえよう。

前オーナーだった(とおじさんは言っていた)超有名某プロデューサーはこの異臭に気がつかなかったのだろうか?いくらなんでもそんなはずはない、といった素朴な疑問を抱えつつも、初めてヒーターのスイッチをONにする。うんともすんとも言わないのである。本来リアエンジンから熱交換を通じて室内に供されるべき温風が吹き出てこないではないか。まったくもって何から何まで役に立たなーい。

このままでは風邪をひいてしまう。そんな悩みを抱えていた時、皇室の調度品クリーニングを代々営んでいるそれはそれは由緒ある都内の業者さんの存在を知ることになる。暗闇に光明を見る思いで早速そのやんごとなき業者さんにター坊を持ち込んだ。そこは歴史と伝統を感じさせる古民家の納屋といった趣の作業場であり、対応してくださった当主も代々続く宮大工の棟梁のような、実に寡黙、しかし本物を知り抜いた者だけが持つ鋭い眼光をお持ちの職人気質あふれる方であった。この人なら全てをお任せできる、マロンは直感した。

数日後作業終了の連絡を受け、宮職人の仕事場を再訪した私を待っていたのは見違えるように光沢を放つター坊であった。長年丁寧に使い込まれた高級家具さながらの趣に思わず笑みがこぼれる。長時間の作業に使用したであろう真っ黒な雑巾、これまた真っ黒なバケツの水が本物の職人技を物語ってるようであり、高額な出費も納得であった。当主から「最近あまり見かけない古いクルマなのでこれからも大切に乗ってあげてください」との身に余るありがたいお言葉を頂戴し、見事異臭の消えたピカピカのター坊と初めて窓を全閉しルンルン気分で帰路についたのである。

しかしそんな安息の時間も長くは続かなかった。なんと翌日には異臭が再び車内に充満しているではないか・・・元の木阿弥、私は敢えてこの言葉を使いたくない。少なくとも車内の汚れが異臭の原因でないことが明らかになるという極めて大きな成果が得られた事実、さらに付記すれば、いずれにせよ内装はピカピカになった訳であり、この実証実験を失敗と断定するのは些か浅慮にすぎないだろうか。

かつてボロボロになるまで読み込んだ日科技連のQCサークルマニュアルに「原因と疑われるところをひとつずつ潰していくのが問題解決の鉄則」と記載されていたあやふやな記憶が蘇る。「これでいいのだ」赤塚不二夫先生の金言を自らに言い聞かせるマロンであった。

結局最後まで異臭の原因はわからず仕舞いで、自らの健康リスクを抱えながらの厳寒窓開け運転の試練は続いたのである。ムートンコートが欲しい・・

まだ続くの??

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