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大師匠のレッスンで再びコテンパンにされた話(前編)

11月のコンサートを控え、昨年から約7ヶ月ぶりに再び高校時代に師事していた、大師匠のレッスンに山形まで行ってきた私。
前回以上にコテンパンにされてきましたが、今回も学びの宝庫でした。

コロナの苦労話でアイスブレイク

レッスンの数週間前、コロナで入院して体力が微妙に戻っていない私。
「コロナで入院してたので、あまり練習できてなくて…」とメールで思い切り言い訳をかましたところ、実は先生も同時期にコロナに罹患していたことが判明。
先生が治った途端に、私が感染して入院するというタイミングだった。
(私が治った後に高校時代の親友も入れ替わるように罹患してた…)

当日、レッスン室に入るやいなや
「入院ってなんだよ!高齢者の俺より悪くなってるんじゃないよ!」
と、どやされた。
でも、話を聞くと先生もしっかりコロナにやられていた様子。

私は幸い大きな後遺症はなかったけど、先生は味覚と嗅覚が完全に戻っていないと嘆いていた。
「カレーの匂いがわからないんだよ!味覚も甘さ以外は何も感じなくてねぇ…」

大師匠が早くカレーを美味しく食べられますように。
お互いにコロナ感染の苦労話を語り合ったところで、レッスンがスタート。

11月の演奏会の話題でレッスンスタート

先生「で、11月は何弾くの?」
私「展覧会の絵のプロムナードとキエフの大門、ベルガマスクのプレリュードと月の光、死の舞踏の予定です」
先生「ずいぶんたくさん弾くのな…私もねぇ、ちょうど展覧会の絵は弾こうと思って練習してんだよ
私「展覧会弾くのやめます」
先生「なんでだよ!弾けよ!」

なんてやり取りを交わしながらピアノに向かう。
今回、私はレッスンに来た目的があった。それは前回、死の舞踏を見てもらったときに先生が言っていた裏技や体力維持をしっかり習得すること
正直、他の曲は譜読み状態だし、空き時間でちょっと見てもらうくらいでよかった。

私「今回は死の舞踏をメインで見てもらいたいです。他は譜読み中なのもあって、時間空いたら見てもらうくらいで」
先生「当日はどういう順番で弾くの?」
私「1部で展覧会、2部でベルガマスクから死の舞踏です」
先生「全部楽譜持ってきた?」

なんだか嫌な予感がする…

私「一応持ってきました…」
先生「本番の順番通りにやるよ!
私「話聞いてました?」
先生「はい!順番通りにどーうぞ!」

私の訴えもツッコミも完全にスルーされた。

<展覧会の絵>聴衆のイメージはオーケストラ!

展覧会の絵はまだ譜読みを始めたばかり。楽譜通りに弾くことすらままならない
5〜6月はコロナでの入院を代表として、体調不調が相次ぎ、練習できなかったロスは大きい。

私「あの…ほんとにまだ弾けなくて、つっかえつっかえですけど怒らないでくださいね」
先生「つっかえたっていいよ、レッスンなんだから」

先生がそう言って怒らなかったことは…いまだかつて、ない。

おそるおそるプロムナードを弾く。
弾き終えた瞬間、大師匠がニコニコ楽しそうに「タララタラララーン♪」と次に続く曲を口ずさんでいた。ほっ…
続いて終曲のキエフの大門。
「これはゆったりと壮大にね!」と言われ、冒頭だけは自信があったので「はい!」と元気よく弾き始めたら

「ちょっと待て!!そんなテンポで弾くなよ!もーーーっとゆっくり!!」

先生に演奏を止められる最短記録を更新してしまった。
前回は6小節くらい。今回は2小節(2音)。先が思いやられる。

曲の中間部はあまりに自信がなく、つっかえながら音を追いかけていたら
「ほら!がんばれ!歯ぁ食いしばっても最後まで弾くんだよ!」

ピアノってそんなに体育会系…………でしたね!
そんなこんなで隣から野次や応援を飛ばされ、それに応戦しながら、やっとの思いで弾き終わり、大師匠からあれこれ指導が入る。

まず、展覧会の絵でいちばん有名なのはプロムナード。シンプルなメロディーと構成なだけに、ミスは最小限に抑えろ!とのこと。
次に、有名なのは原曲ではなく、ラヴェルが編曲した、トランペットで始まるオーケストラ版であること。
聴衆はメロディーを聴いたら、オーケストラ版を想起するので、ピアノ1本で弾くと薄く感じる。
実際、ポップス曲などのピアノアレンジを聴いて、違和感がある人はたくさんいると思う。
その音の薄さや違和感を感じさせないように弾く必要がある。

そこで言われたのは、冒頭のトランペットソロで始まるテーマの弾き方。ピアノでは単旋律で各音にテヌートが書かれている。
私はペダルなしで、音をできるだけ指で繋げて弾いていたが、同じ管楽器でも木管楽器っぽい音に聴こえるそう。

トランペットっぽく弾くには
ノンレガートで音と音の間をあえて繋げずに1音ずつハッキリと弾く
1音ずつペダルを踏んで金管楽器特有の響きを音の厚みで表現する
ということ。

トランペットはピストンを押して音の高低差を変えるので、なめらかさはピアノほどは出ない
その代わり、張りと響きがある音がするもんね。

その反面、弦楽器は構造上、最初からバキッとした音は出ないので、打鍵の速度を少しだけ落として柔らかい音を出す
Tutti(全員が音を出す)部分も固い音ではなくて、少し柔らかみを持たせる
などなど、ピアノでも音色豊かなオーケストレーションが必要とのこと。

次にキエフの大門は、私が聴いたほとんどのピアニストが弾いているテンポが速め。
大師匠いわく「聴衆がイメージしているオーケストラで演奏するのに現実的な速度で弾く方がいいよ」だそう。

特に中間部で出てくる左手のオクターブスケールや、高音から約6オクターブ駆け降りてくる両手のスケールは、ヴァイオリンや管楽器で演奏できる速度で弾くのが良いそう。
そのためには、最初からゆったりと弾かないと途中で違和感が出てしまう

音色や弾き方、テンポなどの参考にオーケストラ版を聴き込むこと、オーケストラのスコアを読むことを勧められた。
あとはプロムナードと同様に各楽器の音色や弾き方の特徴に合わせて、ピアノで音色や弾き方を工夫すること。

その他、跳躍音は身体でポジションを覚えること、和音をしっかり掴むことなど、基礎練習の方法などを教わって「ほれ、あとはやっとけ!」だそうです。

<ベルガマスク組曲>楽譜の買い替えを言い渡される

お次はベルガマスク組曲。
「プレリュードは四角四面に弾かないようにね、月の光は演歌みたいに弾く人が多いから、そうなってないか見るからね!うんたらかんたら〜(以下省略)」
と弾く前から5分ほど先生が語りまくる。
「弾く前から言わないで!」と噛みついてみたが、笑ってごまかされた。

そして私の楽譜に注目した先生、ここで前回同様に楽譜の話があった。
これまで、専門的に勉強してきた人は音楽之友社版を推奨されてきた人が多いと思う。輸入版ならデュラン版
私も例に違わず、音楽之友社版を20年使用している。

大師匠いわく、音楽之友社の古い版ではプレリュードの冒頭と2曲目のメヌエットの一部は現在の校訂と音が違うそう。
私が使っている版はプレリュードの音は正しかったものの、メヌエットの一部は音が違っていた。

和声学上で考えると安川先生の校訂は正しい可能性が高いので、おそらくドビュッシー本人が記号を書き漏らしたと思われるものの、初版ではそうはなっていない。
音源もほとんどが初版に従った演奏をされているらしい。
本当にドビュッシーの書き漏れだとしたら、彼もそのまま後世まで長く残ることは予想していなかっただろうね…

現在は輸入版ではジョベール版、国内ではハンナ(旧ショパン)版が初版に沿った校訂だそう。

ハンナ版は国内版の中でも、お値段が破格の安さ。
それでいて、校訂の元はジョベール版で、フランス語での指示もページ内に翻訳がついている丁寧さが魅力なのだとか。

ドビュッシーは音楽用語以外にも、文章で指示が書いてあることも多いから、毎回フランス語を調べるのが大変なんだよね…

円安の影響もあり、輸入版のジョベール版はベルガマスク組曲だけで4,000円。
ハンナ版でいいから持っているものは買い替えるかとを勧められた。

さすがは大師匠、70代でも常に楽譜の最新情報はキャッチしている。
こういう情報を知っている先生は日本国内にどのくらいいるのだろうか…

ちなみに、大師匠は音楽之友社版の校訂を担当していた安川先生のお見舞いに行った際に「私の校訂した楽譜はもう古いから使わないでほしい」と言っていた、と安川先生のお弟子さんから聞いたそう。

そんな話を聞いたら買い換えるしかない。校訂した人が使うなと言っているのなら、買い換えるのが筋だよね…

今回も盛り沢山なので、前編はここまで。後編に続く!

【告知】11月にコンサートをやります!
詳細はこちらの記事からご覧ください!!

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