日本語のライムタイプ③:完全イントネーション韻(暫定)
こんばんは。Sagishiです。
今回は、日本語の『完全韻』の定義に「日本語のイントネーション」を合成して論じる記事です。まだ議論の余地がある、暫定的な考えを書いていく記事になります。
1 英語の「完全韻」の「強勢」
まず、英語の「完全韻」においてアクセント、つまりは強勢(Stress)がどのように扱われているのかを知っていきます。
英語のPerfect rhymeは、Rhymeと強勢(Stress)が一致していないと、Perfect rhymeにはなりません。このことは、『英語のライムタイプ①:多音節韻(マルチライム)について』でも少し触れていますが、英語のライムというのは、常に強勢と一緒である必要があります。
1-1 雄節韻(Masculine rhyme)
英語のライムタイプには、英語のPerfect rhymeが、ライムと強勢の一致で成立することを説明する定義があります。
それがマスキュリン・ライム(Masculine rhyme)です。直訳すると「男性韻」で、日本の辞書の一部にも載っていますが、わたしは直接的な性別表現をこういった用語に使うことをしたくないので、今回は「雄節韻」という造語を当てます。定義は下記の通りです。
逆に言えば、下記のようなペアは「完全韻」ではありません。
一般的に日本語には規則的な「強い発音」はないです。なので、英語における強勢の重要性に意識が向きませんが、英語には必ず音節ごとに「強い」か「弱い」かがあります。
そして、最後の音節が強勢になる押韻は『雄節韻』(Masculine rhyme)と定義されています。
1-2 雌節韻(Feminine rhyme)
もう一つのライムタイプに『雌節韻』(Feminine rhyme)があります。定義は下記の通りです。
最後の音節に強勢がないライムです。強勢がない音節は、ほとんど重要視されることはないため、母音を揃えることは必須ではありません。
passion[pˈæ.ʃən]とsession[sé.ʃən]のペアは一般的にライムとしては扱われませんが、passion[pˈæ.ʃən]とfashion[fˈæ.ʃən]はライムです。
上記の例は、非常に重要です。日本語話者は「強勢のある音節」を直感的には理解できませんが、英語話者にとっては「強勢」は非常に重要です。
2 日本語の押韻とアクセント
わたしは日本語の『完全韻』の記事で、日本語のアクセントについて触れませんでした。
というのも、一般的に日本語の押韻を議論する際に、「日本語のアクセント」を議論することはほとんどありません。そのため、最初から「日本語のアクセント」を日本語の『完全韻』の定義に含めることに、少なからぬ躊躇がわたしにはありました。
しかし、英語においてアクセント=強勢が非常に重要であるという事実を鑑みれば、日本語の『完全韻』の定義に、日本語のアクセントの一致を含めることが要求される可能性は大いにある、とわたしは考えます。
正直ここは、わたしの中でもまだ結論が出ていない部分です。それを確かめるためにも、日本語のアクセントについて理解を深めていきましょう。
2-1 日本語のアクセント
まず、日本語のアクセントがどういうものなのかを知っていきましょう。ここからかなり内容が難しくなりますが、頑張って付いてきてください。
日本語のアクセントは、一般的に「高低アクセント」や「ピッチアクセント」と呼ばれています。つまり、それぞれの音に「高い」とか「低い」といった属性がつく言語なのが日本語です。
単刀直入に書きますが、日本語(東京方言)は「音が落ちる直前の音がアクセント」です。本記事内ではそう考えてください。ここが最も重要です。
本記事では上記の定義をもとに、日本語のアクセントを説明します。
「箸」は「シ」、「未来」は「ライ」、「愉快」は「カイ」、「兄弟」は「ーダイ」の部分が音が下降している区間です。
対して、「橋」「端」「味蕾」「不快」「表題」は1番目の音から2番目の音にかけて上昇しており、最後まで下降していません。(ここで覚えておく必要があるのは、2番目の音で下降しない場合、絶対に日本語は1番目の音から2番目の音にかけて上昇する、ということです)
また、「深い」は1番目の音から2番目の音にかけて上昇しており、3番目の音「イ」で下降しています。
このように音の高低で、どこで音が下降するかで、わたしたちは日本語の語彙(単語)のアクセントを捉えています。
2-2 複数品詞語のアクセント
次は、単語アクセントではなく、複数の品詞が集まるとアクセントがどうなるかを見ていきましょう。
上記の例では、「ハシヲ」と「トッテ」はそれぞれのアクセントの集合になっており、2つに分かれます。そして、「箸を」「橋を」「端を」がそれぞれ異なるアクセントを持っていることが分かります。
2つの品詞から成る語でも、複合名詞だとアクセントの集合は1つになることも多いです。その場合は、後ろから3音目か4音目にアクセントが来ることが多いです。
日本語のアクセントを理解するためには、どこでアクセントの集合が終わるのかを見極めることと、その集合のどの位置にアクセントがあるのかを、適切に理解・認識することが重要です。
3 完全イントネーション韻
日本語の『完全韻』の定義に、日本語のアクセントの一致を含ませたライムタイプを、『完全イントネーション韻』とすることを提案したいです。これはまだ完全に暫定の定義になります。
『完全イントネーション韻』を定義することで、たとえば次の押韻ペアは『完全韻』ですが、アクセントが異なるため『完全イントネーション韻』ではない、ということが言えるようになります。
上記の例を『完全イントネーション韻』にするには、下記のような押韻ペアにする必要があります。
なるべく同音異義語で揃えてみました。『完全韻』と『完全イントネーション韻』の違いを感じますでしょうか。
さらに複合名詞だとどうなるか、確かめてみましょう。
複数のアクセントの集合があると、どうなるでしょうか。
複数のアクセントの集合は、文節の位置でアクセントの集合が終わることが多いです。なので、文節の位置が異なる押韻ペアは基本的に『完全イントネーション韻』ではないと言えます。
4 まとめ
ここまで書いてきましたが、日本語のアクセントと英語のアクセントの違いを明確に感じます。
アクセントの一致・イントネーションの一致は、押韻ペアの響きのレベルに間違いなく関与していますが、それを日本語の『完全韻』の定義に適切に組み込めるかは、また別の議論になると考えます。
『日本語のライムタイプ』についてここまで3つの記事を書きましたが、一旦わたしがやりたいことは書ききったつもりです。
今後、『日本語のライムタイプ』の議論がさらに発展することを期待します。
参考記事
・日本語のトーン表記の方法を紹介します
https://note.com/j9a/n/ncb5d6b573c6e
※本記事で記載されているアクセントの考え方は、教育ローマ字氏の「曲線声調」をもとにしています。
詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/