国民民主党の経済政策(103万の壁打破)の実現性
こんばんは。Sagishiです。
この記事は自分用のまとめです。国民民主党の経済政策、「103万円の壁の打破」の公約が実現可能だということについて、そのロジックを書いていきます。
1 前提
現在、国民民主党が主張している経済政策等と、それに必要な財源です。①「103万円の壁の打破」が最も政策優先順位が高いため、この記事ではこの政策の実現可能性のロジックを書いていきます。
2 筋論
まず大前提として、「103万円の壁の打破」(基礎控除の引き上げ)は、最低生活保障(生存権)および所得税法の運用の問題です。最低賃金ベース(1.73倍)で見るか物価上昇幅(1.1倍)で見るかなど、引き上げ幅に関する各論はありますが、筋論としては、引き上げじたいを否定することは根本的に望ましくないし、本質的でないといえます。
経済環境におうじて基礎控除の引き上げをしないということは、政府与党は、憲法に保障される生存権を軽視していることになります。
引き上げじたいを否定するのであれば、そもそも基礎控除なんて失くしてしまって、他の制度に置き換えるべきでしょう。筋論として「基礎控除の引き上げ」は必要な政策です。
3 財源批判への回答
上記の観点から言えば、本来やる必要がある政策を棚上げにしておいて、いざ野党から指摘されたときに「財源」を問題にするのは、批判のあり方としても筋が良くないといえます。
また、政府試算の7.6兆という数値が本当に正しいのかという疑問もあります。しかし、上記の数値をベースにした財源批判が、基礎控除の引き上げ議論の批判の核になっています。
よって、以下の3観点から反論を試みます。
3-1 名目GDPの成長
まず、日銀が開示している日本の今後の名目GDP成長率を、以下に記載します。
これを見ると、2024年度は3.1%、2025年度は3.1%、2026年度は2.9%成長すると記載されていることが分かります。
また直近に出ている内閣府の経済見通しでは、2025年度の名目GDP予測は2.6%にはなっていますが、おおむね成長基調にあることが分かるでしょう。
この成長予測は、IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し」とも整合し、IMFは2029年には日本の名目GDPは700兆に達すると予想しています。(2023年の日本の名目GDPは597兆)
名目GDPと税収は相関関係にあるため、名目GDPが伸びれば、税収も伸びます。需給ギャップにも左右されますが、名目GDPが3%程度の成長をすると、理論上税収は2~3兆増えます。
このように継続的に税収が伸びることが予想される経済環境のなかでは、ある程度の税収減となっても将来的には回収が見込まれるため、7.6兆程度の税収減は、実現不可能なほど過大な財投規模ではないといえます。
(ただし消費税減税=12兆規模まで含めると、政策の現実性・実現性は遠のきます)
3-2 経済成長への影響
内閣府の「短期日本経済マクロ計量モデル」に7.6兆をいれると、GDPデフレーターは+0.2%と計算されます。
これは要するに、最大で0.9兆程度の税収押し上げ効果があるということになります。「名目GDPの成長」と合算すると、3〜4兆程度の税収増の経済環境となり、より財源批判への回答になるといえます。
(識者によっては、7.6兆の税収減がバラマキあるいはインフレ加速要因との批判がありますが、上記の通りGDPデフレーターへの影響は軽微であり、バラマキあるいはインフレ加速要因との批判は当たらないです。以下の記事のコメントにて、エコノミストの永濱利廣氏も同様の記載をしています)
3-3 需給ギャップと実質賃金
現在の需給ギャップはわずかですが、年率換算で4兆程度マイナスです。
また賃金上昇率5%に定額減税策まで導入されているのにも関わらず、実質賃金がマイナスに振れる環境です。
(これは税制に何らかの課題がないと、なかなかこうはならないのではないかと思います)
よってこの状況下において、7.6兆程度の経済政策を行うことは一定の合理性があるといえます。
3-4 3章のまとめ
ただし、上記の反論はあくまで「予測ベース」です。また、財源への批判は「恒久減税」であるという点にあります。
わたしは、7.6兆というのは実現不可能な規模ではないと考えますが、より財政的にバランスな考えを取れば、落ち着いた規模にする余地はあるでしょう。
上記の記事では、与党内で「178万円よりも低く設定して減収を抑える案などが出ており」とありますが、これは非常に良い方向性だと思います。
税収減の規模は基礎控除の引き上げ幅に依存するので、色々な考え方はありますが、178万ではなく、140〜160万程度のレンジで妥結点を見出していくのが良いのではないか、というのが個人的な考えです。
第一生命経済研究所のエコノミスト・星野卓也氏も、これに近似する主張をしており、食料品CPIに基づけば140万になると書いています。この記事はなかなか素晴らしく、読み応えがあります。
4 社会保険との関係
103万の壁より、社会保険の106/130万の壁のほうが問題ではないかという指摘もあります。これは以下の点で議論をすることができるでしょう。
4-1 現実的な影響
近藤・深井(2023)から、「有配偶者女性の給与収入分布」には103万の壁があることが明らかになっています。
上記図を見れば分かりますが、103万のあたりに給与収入のピークが来ています。よって所得税の壁(基礎控除)を引き上げることには、このピークに変動を与えるような、実効的な意味があると予測されます。
4-2 別途議論
労働者から見れば同じ「収入の壁」ですが、本質的に所得税法と社会保険の議論は別個です。
よって国民民主党の立場としては、社会保険の議論はまた別個で行うべきであり、喫緊の公約である「所得税の壁(基礎控除)の引き上げ」を行うことに論点を集約させるべきと考えます。
5 住民税非課税世帯の対応
基礎控除の引き上げは、住民税非課税世帯への恩恵を与えることができないという批判があります。これはかなり本質的な批判であり、住民税非課税世帯への経済対策は、基礎控除の引き上げとセットで行うべきと個人的には考えます。
これは公明党が選挙期間中に訴えていた「住民税非課税世帯への10万円給付」を、国民民主党も採用すべきだと考えます。
よって財源も、上記政策とのバランス調整が必要になるでしょう。国民民主党の支持者内においては、住民税非課税世帯の対応への言及が少ないように感じますが、わたしはこれはやるべきと考えます。そのほうが、政策の考え方としてバランスが取れたものになるでしょう。
(とはいえ、住民税非課税世帯への給付はこれまで何度も何度も行ってきており、あと何回やるつもりなのか? という疑問が個人的にはあります。将来的には、さらなる抜本的な税制等の修正が必要だといえるでしょう)
また、基礎控除の引き上げで住民税非課税世帯の総数が増えるという指摘もありますが、これは財源論としては考慮が必要ですが、特段論点にすべきところではないと考えます。
6 まとめ
以上の通り、国民民主党が主張する「103万円の壁の打破」公約の実現性のロジックと、関連する批判等について記述をしました。
2章にて述べたように、まず筋論として「基礎控除の引き上げ」はやるべき政策だといえます。
次に3章にて述べたように、目下のインフレ経済状況下においては、7.6兆程度の経済政策(税収減)は充分に回収可能であり、そこまで過大な財政リスクを与えるような政策ではなく、デフレギャップがある状況も含めて考えれば、政策実行の合理性も一定あるといえます。
ただし、他の政策との兼ね合いなどもありますので、必ずしも178万にする必要はなく、140~160万程度のレンジの中から、交渉によって妥結するのが良いとわたしは考えます。
4・5章では附帯する政策について書きました。
にわかに政策論争が活発化していますが、わたしは国民民主党の公約「103万円の壁の打破」は充分に実現可能だと考えます。
上記に「ガソリン減税」の1.5兆の税収減を合わせても、わたしは回収可能だと考えています。ただし、わたしは「消費税減税」には反対の立場です。実行時の財政的なリスクも高いと考えています。現在の経済状況下においては、だいたい10兆程度までなら税収減に耐えられると考えています。
ただ、ここは考え方次第です。自民党・公明党はどこまでの税収減なら許容するのかは、かなりの見ものだと考えます。よくよくこれで政府与党の考え方が分かるようになるでしょう。政策ロジックの可視化がされるのは素晴らしいことです。
日本の経済・政治が良くなるよう、趨勢を見守りたいですし、国民民主党に強くコミットしている立場としては、その責任の一端を担っていると考え、国民からの付託・期待にこたえられるよう、厳しく自身・党を律していきたいと考えています。
詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/