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福祉施設で「AI支援員」を採用した結果、人件費は月◯円だった。

東京で生成AIをあらゆる場面で活用した就労継続支援B型(障害により企業で働くことが困難な方が働く施設)を運営している。その中で、AI支援員を作り、支援員の知見を学習してもらい活躍いただいている。かなり活躍いただいてるので、AI支援員がやっている業務と原価をまとめようと思う。


AI支援員がやっていること

パパゲーノ Work & Recoveryでは、障害のある方の支援にはChatGPT(GPT-4o)を主に使いつつ、運営のオペレーションはOpenAIのAPIを使って「AI支援員」を作り秘書のような形で支援者の支援をしてもらっている。

パパゲーノが目指していること

日々の職業指導(仕事相談BOT)

1番大活躍しているのが仕事面での指導。パパゲーノ Work & Recoveryでは、営業事務やマーケティング、システム開発の仕事を企業から受託し、その一部を障害のある方が実践している。その中で、一定の業務マニュアルに基づき定型化されたデータ入力、ライティング系の仕事にAI支援員の職業指導を活用している。

具体的には、Discordに繋いでfry.io経由で業務マニュアルのテキストを読み込ませたGPT-4oやGPT-4o miniを動かすことで、「DiscordでAI支援員にメンションをつけて質問したら、AI支援員が答えてくれる」ような体制を作っている。わざわざChatGPTを起動して質問するということを日常業務の中でやるのは難しい。そのため普段のコミュニケーションに使っているDiscordの中でAIを動かすようにしている。(Slackなどでも同様にできるはず)

ざっくり1日あたり100回くらいは質問に回答してくれている。回答精度は読み込ませる業務マニュアル次第だが、95%くらいの質問は解消できている。

面談・電話相談の記録作成

面談や電話の音声データから、Whisperで全文の文字起こしをした上で、GPT-4oを使って支援記録を作成している。記録作業というもの自体をなくすことで、記録漏れが起こらず、朝会や夕会では支援記録を見ればその日の動きが抜けもれなく情報共有しやすい。ゆくゆくは、面談のやり方に対してスーパーバイザーとしてAIにフィードバックをもらうような使い方もできると良いなと思っている。自分の面談方法を見直す良い機会になる。

個別支援計画の下書き作成

アセスメント面談の音声データから、Whisperで全文の文字起こしをした上で、GPT-4oを使って個別支援計画の下書きを生成している。アセスメント面談をしてからなかなか支援計画を作れずに手が回らないのは福祉の支援現場あるあるなのだが、70〜80%くらいの下書きがあると記憶のトリガーになる上にゼロから作るより作業に取り掛かりやすい。

月次サマリーの作成

1ヶ月の体調面、作業面、勤怠の変化や目標と課題、推奨アクションを可視化するために1ヶ月の日報と月次NPSデータを読み取りGPT-4oに月次サマリーを作ってもらっている。時々変なことを言うのはご愛嬌。40人分ゼロからサマリーを作ろうと思うと日が暮れるが、一定アウトプットがある状態でケース会議で1ヶ月の変化を把握できるのは助かる。

ケース会議などの会議録作成

基本的に議事録は全てAIが書いてくれる。「あの時期にこういう支援方針検討してた気がするけど、実際どういう結論になったんだっけ?」みたいなことがあった時に、全文文字起こしをしているのでキーワード検索をすればその時のログが全て出てくる。

最近来てない人BOT

毎週月曜日の朝に、2週間以上来ていない人を教えてくれる。就労継続支援B型は、利用者さんごとに通所頻度がまちまちで月1〜2日の人から、週5日の人までいる。「入院後しばらく連絡取れてないな」「最近休みがちだな」という方がいた時に、こちらから能動的に相談支援事業所やグループホーム、医療機関などの関係機関に働きかけられるかが大事になる。

このBOTのプログラム自体はAIは全く使っていなくて、単純に勤怠データが最近ない人を抽出して通知するだけだけれど、Google Apps Script(GAS)を書く効率がChatGPTで高まったことでこの手のプログラムを組むことは相当ハードルが低くなってきている。

AI支援員が代替している仕事量

AI支援員は、ざっくり人間換算すると毎月「153時間分」の仕事をしてくれている。ひたすら感謝である。

  • 記録作成:0.5時間×60件=30時間

  • 個別支援計画の下書き作成:0.5時間×6人分=3時間

  • 日々の職業指導:1日5時間×20営業日=100時間

  • 月次サマリーの作成:0.5時間×40名=20時間

  • 合計:月153時間

時給1,200円だとすると、1,200円×153時間=月183,600円。法定福利費(健康保険料/介護保険料/厚生年金保険料)の会社負担分を15%とすると月211,140円になる。つまり、人間換算で「月20万円」の作業をしてくれている。

AI支援員の人件費

月5,000円!

くらいがAI支援員の人件費になっているのがパパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)の現状である。月20万円分の仕事を5,000円の人件費で働いてくれていると思うと、なかなかのROI(投資対効果)である。

API利用量の月次推移(数字の単位はドル)

具体的なOpenAIのAPI利用量の月次推移は上記の通り。音声の文字起こしのモデル(Whisper)の利用料が圧倒的に高く、約5,000円のうち9割くらいは音声文字起こしの原価である。逆に大規模言語モデル(GPT)はめちゃくちゃ安い。正直、大規模言語モデルは使わない理由がないレベルで原価が安くなっている。

2024年3月に「AI支援さん」という福祉施設向けの支援記録アプリのリリースをしているのもあり、2024年2月に社内でのあらゆる現場活用の実証をしていてAPI利用料が高い。そこからじわじわ社内でも利用を進めている。利用度合いが高まる一方、OpenAIのAPI利用料が新しいモデルが出るたびに安くなっているため最近は原価が圧縮傾向にある。

GPT-4oの原価圧縮度合いが凄まじいのと、GPT-4o miniは正直ほぼ無料と思っても差し支えないくらい安い。チャットbotとしてマニュアルを読み込ませて毎日使い倒すような使い方に向いていると思う。

(※ただし、GPT-4oもGPT-4o miniもスクショ画像の読み込みコストは同等のようなので、チャットbotで作業画面のスクリーンショットを貼り付けてAIに相談する際は多少原価負担がminiでも大きい点は注意が必要。)

APIの利用料は新モデルのリリースごとに下がり続けている

支援者支援のためのAI活用

福祉施設で「AI支援員」を採用した結果、人件費は月5,000円で20万円分の良い働きをしてくれた。

とはいえ、生成AIの本質はミクロな業務効率化ではなく、人間の大脳の機能補填・拡張ができる点にあると思う。つまり、精神疾患など脳の機能障害でこれまで「できない」とされていた多くの営みを生成AIにより補填して生きる選択肢を増やせるということ。福祉業界でのAI活用の本質は後者にある。このnoteで書いてるような小さな業務効率化の話は枝葉の各論でしかない。

AIに興味ある方はご連絡ください!

紙管理が中心だった就労BでAI活用を進める支援をしたり、相談支援事業所向けのAI活用の実証実験をしたり、グループホームのIT活用の顧問に就かせていただいたりもしているので、福祉施設でAI支援員を作りたい方は気軽にご相談ください〜。


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