日用品マーケッター受難の時代?!
~何も考えたくないニーズ(無関与の時代)~
久々の投稿です。最近、ライオン(株)の「スーパーNANOX自動投入洗濯機専用」という新製品のTVCMを見て少し衝撃を受けたので、その事を書いてみようと思います。
この新製品は、最近の洗濯機に合わせて、計量の手間いらず、数か月も継ぎ足しもいらないという、省力化ニーズに対応した優れた商品である。洗濯は機械と剤の共同作業であるから、機械の進化に合わせて剤も変わる、これは定石のマーケティングである。
だが、このことは、お客様の頭の中から、”洗濯”を遠ざけ、考えなくてもよいものにしてしまうだろう。私が驚き、危惧するのはこのことである。
もちろん、これまでも商品開発は、お客様の不満や不便、不安や手間を解消することで、利便で快適な生活を提供してきた。今回の新製品もその流れの中に位置付けされる。
不便や不満や手間を解消し、「便利になる」「快適になる」その先にはなにがあるのか? 実は、「そのこと(今回は洗濯)を考えなくて済む」という価値なのだ。特に日用品に関わるマーケティングでは、その価値実現がすぐそこまで来ているのかもしれない。ルンバによって掃除の事を考えなくて済む。全自動は食器洗い~洗濯まで、多くの家事を席捲している。
「考えなくて済む」価値の何が、マーケッターにとって受難になるのか? 製品に対する関与がなるなるということは、ニーズやウォンツも生まれなくなるし、銘柄(ブランド)に対する愛着もどんどん小さくなっていく、そんな”無関与”の時代がすぐそこに来ているかもしれない。(NO.1ブランドにとっては、消極的な支持を維持できるからうれしいという一面もあるが、、、、)
もちろん、関与がなくなるといっても、それは商品関与の事であり、購買関与として、購入時に失敗しないようにちゃんと選びたいという関与は残るだろう。ただし、それは4ヶ月に1回しか訪れない機会となる。4カ月の間は、洗濯は洗濯機と貯蔵された洗剤に任せきりで、洗剤商品に対しては全く見向きもしない、そんな消費者がほとんどになってしまう、かもしれない。
10数年前、ライオンで働いて時、こんな経験をした。洗濯にまつわるニーズ探索のため、家庭訪問調査で、家庭内の洗濯機回りをビデオ撮影を行った時である。回収されたビデオを再生すると、朝、洗濯機に衣類が放り込まれ洗剤が投入されスイッチが押されたら、その部屋の電気が消され、洗濯が終了するまで誰もおらず、暗い部屋でただ洗濯機の音だけが聞こえるそんなシーンが繰り返されたのである。既に、洗濯の「考えなくてもいい」価値化は進んでいたのだろう。
さかのぼること数十年になるが、私がリサーチで「考えなくてもいい」価値に出会った瞬間を思い出す。当時、ライオンは食品事業も展開していて(国内でマコーミックブランドを扱っていた)、その中で、「練りわさび」新製品の開発に関わる調査に携わったことがある。グループインタビューで主婦層に「練りわさび」に関わる事を根ほり葉ほり聞いていったのだが、「
『生』って書いてあれば買う」「ハウスやS&Bなら問題ない」「どれを使ってもそんなに違いがないし、家族の苦情も出ない」といった意見を広い、ラダー(梯子)化して、上位概念のニーズを探っていった。リサーチャーたちと議論して、到達した「練りわさび」の最上位ニーズが「練りわさびの事なんて考えたくない!」というものだった!(ただし、社内報告会でそれを伝えることは憚られ、下位のニーズの披露でお茶を濁したが、、、)
日用品に限らず、例えば自動車なんかも、自動運転の時代になったら、乗ってても自動車を意識しなくなり、そのまま関心関与が薄れていくことになるかもしれない。最近は学生が新製品に対して感度が弱くなっているように感じる。昨今の高校生はシャンプーやヘアケアにあんまり関心示さなくなっているかも(バブルの時代は、高校生の支持がないシャンプーはヒットしないなんて感じだったが、、、)。
世は、究極の便利を目指して、「考えなくてよい」時代になるのか?その時にマーケッターは何をしたらよいのか?