『春の幾何学』武藤義哉第1歌集

鳥たちの小さな脚をあたためて春の舗道は木漏れ日のなか
やわらかな花野であれば傷ついたレコード一枚しずかにのせる
たんぽぽの綿毛の球を吹きくずし風の仕事をひとつ奪った
くるくると風力計はまわっても測りきれない風の淋しさ
風よりも遠くから来るものがある風車はいつもそう思ってる
○パステルカラーの絵を見ているような優しい読みやすい歌。1首目細やかな視線。風の歌3首、いくらでも作れそうな想像力がある。

ゴンドラに乗ったわれらは順々に空に紹介されて下り来る
渡り鳥渡らせたあと空はもうすることがない暮れることしか
封筒を閉じる瞬間誤字ひとつスルリと入ったような気がする
淋しさのこぼれる窓も連ねれば夜景という名の賑わいとなる
○「紹介されて」「もうすることがない」「スルリと入ったような」「淋しさのこぼれる窓」軽く詠んだように見せて、練られた表現だ。

心だけ遠くへ行ける乗り物だ若葉のなかを揺れるぶらんこ
命という重荷もすっかり流れ去り春の渚のうすい貝殻
○体言止めだけれどどちらもかたくなく終わっている。心、命、それほど重くならずに、言い得ている2首。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?