そのデザインへのこだわりは後世へと継承される
福岡市美術館 1979 前川國男
日本を代表する建築家が設計した建物である。
1960年代後半から晩年にかけて国内各地で
つくられた公立美術館・博物館の一つであり、
有名なものに国立西洋美術館、熊本県立美術館、
東京都美術館、埼玉県立博物館などがある。
この建物は施設の老朽化により2016年から休館し、
前川國男氏の建築意匠を継承することを前提に、
2019年3月にリニューアルオープンされている。
建物全体のデザインを尊重しつつ、大濠公園側に
新しいアプローチを設けた計画とされている。
前川國男氏の建築は、赤茶色の磁器質タイル、
エスプラナード、ロビーなどのゆとりのある空間、
アーチ型の天井や、はつり壁面、建物にあわせて
デザインされた照明器具や家具などに特徴がある。
福岡市美術館の見所は、内部のロビーから外部の
エスプラナードにいたる贅沢な共用の空間である。
建物の高さは低く抑えられ1階と2階がゆるやかに
連続する。回遊性のあるプランにより、いろんな
場所から建物、彫刻、中庭を眺めることができる。
広場は視覚的に大濠と一体となり拡がりを見せる。
建物の中心に配置されたホールと光に満ちた中庭。
それらを巡るように、ゆっくりと階段を登るにつれ、
温かく手ざわりのよい空気に包み込まれるようである。
なんと贅沢で、かけがえのない空間であるのかと思う。
この広々とした空間には、細部までこだわられた
照明や椅子などのデザインが散りばめられている。
そのデザインの一つ一つの積み重ねにより、目に
見えない心地よい雰囲気が作り出されるのだと思う。
熊本にも、前川國男氏に設計された美術館がある。
熊本県立美術館は1977年に竣工した。
外観からは想像できない圧倒的な内部空間がある。
格子の天井、開放的な開口部、立体的な空間構成、
そのデザインにこめられた思いに心打たれる。
福岡市美術館のように、永く使い続けてほしい。